オーディエンス不在のロック映画

gakus2004-11-17

 音楽ドキュメンタリーが花盛りですが、今日は「フェスティバル・エクスプレス」(来年1月公開)なる映画を観ました。

 1970年、ジャニス・ジョプリングレイトフル・デッドザ・バンドなと時の人気アーティストを列車に乗せ、西へと向かい4箇所でコンサートを行なうというカナダ横断ツアーが敢行された。通称フェスティバル・エクスプレスと呼ばれるこのツアーは映画化目的でカメラに収められていたが、権利関係の問題で当時は実現にいたらず、晴れて今日、当時を回想する関係者のインタビューをまじえ、ドキュメンタリー映画として編集された。

 ジャニス・ジョプリンの『CRY BABY』の鬼気迫る熱唱や、ザ・バンドの『I SHALL BE RELEISED』『THE WEIGHT』のリラックスした演奏など、ステージ面での見どころは多いが、列車のなかで自然発生するセッションの映像は、音楽ファンには嬉しいところだろう。ザ・バンドのリック・タンゴを中心にしたクリームの『SUNSHINE OF YOYR LOVE』の演奏、タンゴとジャニス、グレイトフル・デッドのジェリー・ガルシアによる、ほとんど夢のようなセッションまで起こり、みんながみんな実に楽しそう。とりわけジャニスは終始上機嫌で、笑顔が絶えない。出演アーティストのひとりであるブルースマンバディ・ガイは“つねに何かが起こるから眠る時間も惜しい”と語る。それだけ実りが多かったのだろう。

 カナダのウッドストックとも呼ばれたフェスティバル・エクスプレスだが、ウッドストックとの違いは無料入場者を入れなかったこと。それによって、フリーコンサートになることを期待していた若者たちと警官の間で衝突が発生し、映画はその模様もとらえている。逆に、チケットを買って入場した観客をほとんどまともにとらえていないのだが、それがこの映画のユニークな点。会場の盛り上がりを伝えるうえでオーディエンス側の映像はコンサート・フィルムでは必須だが、ここではアーティストのパフォーマンスに終始する。これはミュージシャンこそが、この映画の主役であるという意思表示の表われのように思える。誰よりも、この5日間を楽しんだのは彼らなのだから。ジャニスのバンドのメンバーは、“2度とは訪れないであろう素晴らしい体験だった”と語っている。

 酒もあるしドラッグも音楽もある…そんな列車、乗ってみたいねえ。というわけで、ジャケはご存じ、ジャニス・ジョプリン、『CRY BABY』収録の『PEARL』。

フェスティバル・エクスプレス [DVD]

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