せっかく狂ったのに…

gakus2006-01-13

 「ロード・トゥ・パーディション」に続くサム・メンデス監督の最新作「ジャーヘッド」は湾岸戦争に赴いた一兵士の体験談を映像化したもの。ご存知のとおり、湾岸戦争はほぼ空爆でカタが付いたので、歩兵はほとんど出番がなく、ただ砂漠で“待つ”ことだけを強いられた。「ジャーヘッド」は、そんな一人も殺すことのなかった兵士のお話です。

 「フルメタル・ジャケット」のリー・アーメイのような鬼教官や、ジェイミー・フォックスふんする軍曹のシゴキを経て、主人公(ジェイク・ギレンホール)は“ブッ殺す!”気満々の戦闘マシンとなっていく。“早く赤い飛沫が見たい”と言いながら射撃練習するほどの狂いっぷり。にもかかわらず、戦場に行っても銃を撃つ機会はない。マスターベーションと銃の手入れ、仲間とのバカ話、恋人の浮気の心配に費やされるだけの日々。やっとめぐってきた狙撃の機会も急遽中止。“一発でいいから撃たせてくれ!”という叫びが空しく響く。「M★A★S★H」ほどフザケすぎておらず、「フルメタル・ジャケット」ほど深刻にならず。風刺とリアリティをほどよく混ぜ込んだ、メンデスのサジ加減は相変わらず絶妙。

 戦地に到着してすぐ、戦う気満々の中での防護マスクを付ける訓練シーンではT.REXの『GET IT ON』が流れ、高揚感をあおる。しかし、以後は士気下がりっぱなし。2005年11月18日の日記に記したNIRVANAの『SOMETHING IN THE WAY』は、主人公が恋人の浮気しているという念にとらわれて泣き崩れ、トイレで恋人の写真を見ながらマスターベーションをしているなどの映像と重なる、重苦しい雰囲気の起用。かなり長い時間かかっていたので、インパクトは強い。また兵士たちの頭上をヘリが飛んでいくシーンがあるが、そこで流れてくるのはDOORSの『BREAK ON THROUGH』。“ベトナム時代の曲じゃないか。最近のはないのか…”という兵士のボヤキが、前の戦争との様相の違いを象徴しているかのよう。結末近くではトム・ウェイツ/TOM WAITSの『SOLDIER'S THINGS』がシンミリと流れてきて哀感を誘う。

 ジャケは、その『SOLDIER'S THINGS』を収録したトム・ウェイツ、1983年のアルバム『SWORDFISHTROMBONES』。