ばーか、ばーか

gakus2007-05-15

 2001年、メジャーリーグ記録となったサンフランシスコ・ジャイアンツバリー・ボンズのシーズン73本目の本塁打。この記念すべきボールをめぐっての、ファン同士の争いの行方を追ったドキュメンタリー『100万ドルのホームラン』が6月に劇場公開される。

 それまでの記録であるマグワイの70号ホームランの記念ボールは、オークションで何と270万ドルの値が付けられた。となればボンズの新記録ホームランボールは、さらに値が上がるはず。というわけでボンズが出る試合の外野スタンドは連日、一攫千金を求める人々で賑わっていた。そして、ついに飛び出した73号ホームラン。このボールを手にしたのは、ハヤシという日系人男性だったが、“最初にキャッチしたのは俺だ!”と主張する人物が現われて、この騒動は裁判沙汰へと発展する。

 この男性ポポフさんは、ボールに殺到した観衆に押し倒され、そのさなかにボールを落としたという。それをつかんだのが、どうやらハヤシさんらしい。その時の模様を収めたVTRにも、確かにポポフらしき人物のグラブにボールが収まるさまが写っている。複数の目撃証言も、彼が最初にキャッチしたことを証明しているようだった。しかも、ハヤシがボールを手にするために近くに居た子供の脚に噛み付いた…なんて証言も飛び出した。ポポフは自信満々で法廷に臨むが…。

 裁判の行方は映画を観ていただくとして、この映画の注目ポイントはポポフさん。最初はいかにも被害者的に登場し、マスコミにも同情的に扱われたりしているのだが、取材を受ける度にタレント性を発揮しだす。マスコミに騒がれることを楽しんでいるのだ。観ているこちらも、“この人、ただのお調子者かも…”と思えてくるのだが、新たに“ポポフはホームランボールではなく、「SUCK(ばか)」と書かれたボールを持っていた”という証言まで飛び出す(場外ホームランを期待して球場の外で待機しているファンをからかうため、当日スタンドのファンの多くはそんなボールを持ち込んでいたとか)と、さすがに子供じみたケンカの色が強くなる。大の大人がボール一個で法廷闘争を起こしたことはマスコミにも大々的に取り上げられ、“近年もっともバカげた騒動”などと評された。

 ボール一個が3億円以上の価値があることを思うとポポフの気持ちも理解できないでもない。しかし、この人のいい加減な性格が見えてくると、この騒ぎ自体が、だんだん笑えてきてしまう。これは見下してるワケではなく、友人がくだらないことをやっているのを見て“バカだねー、コイツは”と思う感覚に似ている。裏を返せば、対象を一面的な見方ではなく、生々しいリアルさをもってとらえたドキュメンタリーという言い方もできるだろう。そしてポポフさんは期待を裏切ることなく、最後の最後まで“バカだー”と笑わせてくれる。

 ポポフさんは世代的に80’sの音楽の洗礼を受けた人のようで、愛車の中では一瞬、SOFT CELL「TAINTED LOVE」が聴こえてくる。ジャケも車内で聴こえる一曲。U2、1987年のヒット曲「WHERE THE STREETS HAVE NO NAME」のシングル盤。この人、歳が近いから憎めないのだろうか!?