ゴッド・ハンド!

gakus2007-09-04

 1960年代にポップ・スターのキャリアをスタートさせ、当時のミック・ジャガーの恋人としてゴシップ欄を賑わせたうえに、ブライアン・ジョーンズに次いで天国にいちばん近いジャンキーとなるほどだったマリアンヌ・フェイスフル。70年代後半にカムバックして音楽活動と共に女優としても活躍している、そんな彼女の『あの胸にもういちど』以来40年ぶりとなる主演作『やわらかい手』が12月に日本公開される。これが、なかなか面白い。

 マリアンヌふんするは、重病の孫を抱えるロンドン近郊在住の老女。孫の病気はオーストラリアに転院すれば治る可能性も高まるのだが、自分も息子夫婦も現在の入院費用だけで手一杯。迷ったあげく、ヒロインは風俗店に飛び込み、いわゆる“手コキ”の仕事に就く。この店は壁に空いた穴に客がペニスを突っ込み、壁の向こう側にいるホステスがそれをしごくという仕組みで、客には老女がホステスであるとはわからない。しかもヒロインの手がすべすべして滑らかで、恐ろしいほどそのスジの才能があった。かくしてヒロインはイリーナという源氏名で売れっ子となり、行列の出来る風俗嬢となったうえに、郊外での退屈な生活から抜け出して自分の居場所を見つけ出すのだが…。

 修羅場をくぐってきたマリアンヌならではの歌声については以前ふれたが、ここではそれが存在感そのものとして表われており、どんくさいキャラクターながらも、ヒロインにタフな人間性をあたえている。孫の前でみせる優しい表情から、風俗店の経営者(食わせ物だが時折人間臭さを覗かせる、このキャラクターもいい)に対する切実な顔つき、そして自分を見下している同世代の友人たちへの従順さから反攻へと向かう勇ましさ。どれも自然で、素敵だ。

 ジャケは1987年にリリースされたMARIANNE FAITHFUL、60年代のヒット曲集『GREATEST HITS』。願わくば、この写真のころに手コキ演技をやって欲しかったなどと考えるのは自分だけではないはず。ちなみにこのころの彼女は逮捕こそ免れたが、警官の手入れの現場でスッポンポンの姿で、ストーンズのメンバーとともにラリッていたことがあったという。