ニュージャージーの定番ラブソング

gakus2008-09-03

 たぶん日本でもひっそり公開されるけれど、『ワイルド・バレット』(10月公開)は、なかなか侮れないハードボイルド犯罪劇。全米の賞レースに絡んだ『THE COOLER』で注目を浴びたウェイン・クラマー監督は、この2作目でも見事なキレのある演出を見せている。これが認められ、次回作はハリソン・フォードショーン・ペンを起用し、自作短編の長編化に挑むという。あのタランティーノも"ウォルター・ヒルロバート・アルドリッチのようなアクション映画監督の偉人が住む神殿に、いきなり飛び込んできた驚異の監督”と評したという。

 舞台はニュージャージーポール・ウォーカーふんする主人公は、マフィアが犯罪に使用した拳銃の処理を担当するギャング組織の一員。彼が処理するはずだった拳銃を、隣家のロシア人の男の子が持ち去り、暴力的な養父を撃って姿をくらましてしまった。この拳銃からマフィア犯罪の足がついてしまっては大変と、ウォーカーはこの少年を探して一晩中街を歩くことになる…。

 予期せぬ事態に慌てふためく主人公の適度な情けなさとタフガイぶりが絶妙。そして後半になると、この男の目的が実は違うことにあったことがわかる。彼の妻やボス、敵対するロシアン・マフィア、幼児ポルノを撮る変態夫婦など、さまざまなキャラクターが登場するが、誰ひとりととして無駄に描かれず、必然性を持ってそこに存在する。それだけ見ても、この監督はただ者ならぬ人だと思う。

 さて、この主人公はロシア人少年を発見し、車で連れ帰ろうとするのだが、車中で"女といい仲になりたいときにかける曲だ”といってカーオーディオから流すのが、SOUTHSIDE JOHNNY"I DON'T WANNA GO HOME"。曲名はなるほど。でも、いささか古すぎやしないか?メジャーでもないのに…とも思ったが、SOUTHSIDE JOHNNYがニュージャージー出身であることを考えると、再びなるほどという気持ちに。

 ジャケはその曲を収めたサウスサイド・ジョニーのデビュー・アルバム『I DON'T WANT TO GO HOME』、1976年リリース。ちなみにこの曲の作者はブルース・スプリングスティーンのE STREET BANDのギタリストとして知られるリトル・スティーブン。