心の荒野のダッチワイフ

gakus2008-11-13

 お正月映画の中で、結構気に入ってるのが『ラースと、その彼女』。2年前のアカデミー賞で主演男優賞にノミネートされた若手演技派ライアン・ゴズリング主演、コミカルで味のあるヒューマン・ドラマです。

 アメリカの田舎町で、兄夫婦の家のガレージを借りて暮らしている青年ラース(ゴズリング)は、人付き合いが苦手。平日は仕事場で同僚たちと普通に話し、日曜日にはマメに教会に通ってはいるものの、基本的には人と深く付き合おうとせず、兄の嫁はとても心配している。そんなある日、ラースが恋人を紹介すると言ってきたので兄夫婦はホッとするが、それもつかの間、彼が大真面目に”ビアンカだよ”と紹介した恋人は通販で買った人形=ダッチワイフだった! 弟の頭がおかしくなった…と兄夫婦は医師に相談した結果、兄夫婦ばかりか町の人々も巻き込んで、ビアンカを人として受け入れるよう努めることになる。

 ラースのことを知らない人々は当然、彼が車椅子で運ぶビアンカに好奇の目を向けるのだが、同僚や友人、近所の人々はビアンカに話しかけ、また仕事を紹介したりもする。それまでの人生でラースが他人に愛されてきたことが、これらのシーンでよくわかるんだけど、この辺に生活の中で築かれる人と人のつながりがジンワリとにじみ出て、なんともいえない温かみを感じさせる。ラースのことを誰よりも心配している義姉(エミリー・モーティマー)や、ビアンカの病気の具合を診ると言いつつ、ラースの精神分析に当たる女医(バトリシア・クラークソン)がイイ味出してます。

 ラースはビアンカを連れて同僚の誕生パーティーに出かけるのだが、ここでも彼らは他者から好奇の視線を浴び、一方で同僚たちからは温かく迎えられる。バックで流れているのはTOM TOM CLUB『GENIUS OF LOVE』。人の目をまったく気にしないラースは、ある意味、愛の天才かもしれない。その後、レコードが変えられ(CDではなく、レコード)、TALKING HEADSの”THIS MUST BE THE PLACE”。パーティの主賓はトーキング・ヘッズ好きのようだが、この連発、踊れてなおかつソフトな選曲がイイ。

 ジャケは1981年、TOM TOM CLUBのファースト・アルバム『TOM TOM CLUB』。『おしゃべり魔女』の邦題で日本でも売れてた記憶あり。