一人前になるためのブルース

gakus2004-08-17

 ブルース・ムービー・プロジェクトの一本として公開される音楽ドキュメンタリー「ゴッドファーザー&サン」(10月公開)を観る。

 シカゴ・ブルースを語るうえで欠かせないチェス・レコードの2代目社長マーシャル・チェスと、パブリック・エネミーのチャックDの出会い。それは1968年に発表されたマディ・ウォーターズのアルバム『エレクトリック・マッド』を再演するというプロジェクトに発展する。当時のブルース・ミュージシャンたちと、チャックDら若いヒップホップ・アーティストの共演。その過程を追いながら、チェス・レコードの隆盛とともに成長したマーシャル・チェスのブルース人生をたどっていく。

 “ゴッドファーザー”とはチェスでプレイしていたブルース・ミュージシャンで、“サン(息子たち)”は現役のヒップホップ・アーティスト。チャックDは、ブルース・ファンには嫌われているアルバム『エレクトリック・マッド』に感銘を受けて、黒人音楽のルーツに目を向けるようになったという。彼は語る“ルーツを知らなければ、何も学べない。今を刹那的に生きるだけになる”。

 もうひとり、ブルースの息子といえるのが、チェス・レコード2代目社長マーシャル・チェス。チェス・レコードはマディの他にもチャック・ベリーハウリン・ウルフ、ボ・ディドリーなどの人気アーティストを輩出したレコード会社で、1950〜60年代の黒人音楽をリードしてきた。創設者である父からこの会社を継いだマーシャル・チェスは白人だが、多くの黒人ミュージシャンに囲まれて成長し、また父親の経営哲学を目の当たりにして、チェスを仕切るようになった。

 この映画を観て何より感銘を受けるのは、彼らのルーツ探求の旅。上の世代をリスペクトするようになって、彼らは一回り人間的に成長する。若いうちは今が楽しけりゃ、それでいいと思うもの。しかし、それまで“点”に過ぎなかった人生はルーツを知ることで“線”になる。ルーツというからには、その線は根っこへとつながっている。すなわち、迷ったときに立ち戻れる場所を見つけた、ということでもある。

 ブルースの詞には“MAN”という言葉が頻繁に出てくるが、それはBOYではない者の自己主張。ブルースを知ることは、一人前になるひとつの道のりなのだろう。マーシャル・チェスの父は死ぬ前に、めったに褒めたことがなかった息子にこういったという。“おまえは生き抜く力を身につけたんだ"

 ジャケは『エレクトリック・マッド』が適切ですが、あいにく持っていないので、チェスから1961年に発売されたボ・ディドリーの『BO DIDLLEY IS A GUNSLINGER』。この映画には短編映画「ボ・ディドリー伝説」(観たい!)が一瞬、挿入され、そこでこのジャケのようなカウボーイ姿のボ・ディドリーを確認できる。一歩間違えると駄目ジャケ100選行きだが、この映画を観てからでは、この自己主張も“男”に思えてくるから不思議。

 今年観た映画ではベストの部類に入るであろう作品でした。書き足りなかったことを明日書こうと思います。

ゴッドファーザー & サン [DVD]

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