真性ゴス男

「ラン・ローラ・ラン」以降に日本で公開されたドイツ映画は若々しく刺激的な作品が多いので注目しているんだけど、４月に公開される「愛より強く」もパワフルな一作。ベルリン映画祭金獅子賞受賞の冠に臆する必要がない、熱くて切ないラブストーリー。

　妻に先立たれて自殺未遂を起こした40歳のバンドマンくずれの男が、トルコ系ドイツ人の奔放な女の子に偽装結婚してくれと頼まれる。それは彼女にとって、保守的な家族から逃れるための手段だった。かくして愛のない結婚生活が始まるが、ふたりで過ごすうちに惹かれあう仲に…。ありがちな話ではあるが、ロッカー気質が抜けずに気張っているせいで、ヒロインにのめりこむほどダサく見えてくる男の情けなさが、なんとも切なくて好印象。酔っ払って“パンクは死んじゃいない！”と絶叫する姿が、また泣ける。他人事じゃないね…。

　どうもこの主人公のパンクはゴシックに近い（といっても最近のではなく、オリジナルの方のゴス、ポジパン）ようで、ドアにはスージー＆ザ・バンシーズのポスターが貼ってある。車を飛ばしているときに聴こえてくるのはデペッシュ・モード『I FEEL YOU』、通りを歩けばバースデイ・パーティ『HO-HO』。ちなみに、先のパンクス・ノット・デッドな発言のバックで流れているのはシスターズ・オブ・マーシー『TEMPLE OF LOVE』。ヒロインと一緒に、テンションも高く踊っている。

　この映画では合間・合間にトルコの民族楽団の方々の歌がイタンブール港をバックに演奏している姿がインサートされ、そこで歌われる歌が語り部的な役割を果たす。物語が進むほど先のゴス・ナンバーは減少して、結局はトルコ音楽だけが残る。主人公の魂の浄化を見るような流れ。音楽面のみごとな演出でありました。

　ジャケは『HO-HO』を収録したTHE BIRTHDAY PATY、1981年のアルバム『PRAYERS ON FIRE』。ニック・ケイヴの最近のアルバムと聞き比べると、この人もずいぶん浄化されたような気がする。

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