とっつかまった!

gakus2007-09-02

 『ショーン・オブ・ザ・デッド』で名を上げ、『グラインドハウス』のフェイク予告編も手がけたエドガー・ライト監督の『HOT FUZZ』の輸入DVDが到着。この映画については、1月24日2月18日のエントリーでも触れたが、いやはや期待にたがわぬ快作でした。

 お話は、正義感にあふれ過ぎるうえに図抜けたスキルも持ち合わせているロンドンの警官ニコラス(『ショーン・オブ・ザ・デッド』に続いて主役を演じるサイモン・ペッグ)が、周囲にうざったがられて田舎町に左遷させられたことから始まる。そこは10年以上も犯罪らしい犯罪が起きていないド田舎で、同僚たちもノンビリ・ムード。署長のバカ息子で、刑事映画オタクのダニー(『ショーン・オブ・ザ・デッド』に続いて、またまたニック・フロストがペッグと丁々発止を見せる)ゴンビを組まされるハメになったニコラスは呆れつつの、いなくなったアヒルを捜すなどの退屈な仕事をこなす。そんなある日、地元の劇団員の男女が斬首死体で発見されるという事件が発生。ニコラスは殺人の匂いを嗅ぎ取るが、同僚らはあっさり事故で片付ける。その後も実業家の爆死、ジャーナリストの惨死事件が起こるが、ニコラスが殺人捜査を主張しても同僚たちは事故と決め付ける。やがて、花屋の女店主が殺される瞬間を目の当たりにしたニコラスは自分が正しかったことを悟り、独自の調査を続けると、そこには意外な事実が…。

 トレーラーだけ見ると、いかにも刑事映画のパロディー的コメディーなんだけど、惨殺シーンはスプラッター度が高く、笑いの中にもドキッとさせるバイオレンスがある。この辺は、ゾンビ映画をパロディーにした『ショーン・オブ・ザ・デッド』にも共通するのだが、加えて、仕事バカの主人公に怠惰なその相棒という大人になれない者同士のパートナーシップも前作そのまま。

 アクション映画に転じるクライマックスは銃撃戦が凄まじい。とはいえ、そこはコメディーらなので、セルジオ・レオーネと組んだころのクリント・イーストウッド的な西部劇のパロディーや、刑事アクションの定番的描写をお笑いに転化したシーンも盛りだくさん。2時間まったく飽きず、一気に見ることができた。町山智浩弘氏が自身のポッドキャストで言っていた『オーメン』『ウィッカーマン』のパロディー的展開も納得。

 飽きのこないもうひとつの理由は音楽で、ブリティッシュ・ロック好きにはたまらない選曲。オープニングはいきなりADAM ANT、1982年のヒット曲“GOODY TO SHOES”でノリよく始まる。主人公が田舎町の最初の夜をパブで過ごすシーンではXTC“SGT. ROCK”か聞こえてくる。一夜明けると、田舎町の平和な朝の風景にKINKSの“VILLAGE GREEN PRESERVATION SOCIETY”が重なり、同じくKINKSの“VIELLAGE GREEN”がバザーのシーンで流れてきて、田舎町の善良な空気を引き立てる(もっとも、コレは後に皮肉であることが判明する)。KINKSといえば初期のプロデューサー、ラリー・ペイジがプロデュースしたTROGGSの曲もパトカーの中で聴こえてきた。また、やることがないから何かとオヤツばかり食べている警察署員たちの、主人公歓迎ランチの席ではFRATELLIS“BABY FRATELLI”、エンドクレジットで同じくFRATELLISの“SOLID GOLD EASY ACTION”、そのオリジナルであるT-REXの原曲はパブのシーンで流れ、同じパブではSWEETの“BLOCKBUSTERやTHE MOVEの“NIGHT OF FEAR”、そしてエンディングではSUPERGRASSの“CAUGHT BY THE FUZZ”…といった具合に、60’sもグラムもニューウェーブブリットポップも最近のヒット曲も、何でもありのタイムレス・ブリティッシュ・ロック大会で嬉しくなってしまった。

 この田舎町の実業家役でティモシー・ダルトンが出演しているのだが、いかがわしい存在であることは音楽からも明らか。例えば、斬首事件の現場を車で通り過ぎるとき、彼の車からDIRE STRAITSの“ROMEO AND JULIET”が流れてくる。これは犠牲者である劇団員カップルが前夜演じていた劇「ロミオとジュリエット」に掛けたものだが、『ショーン・オブ・ザ・デッド』でダイアー・ストレイツがコケにされていたことを踏まえると、ダルトンが怪人物であることは想像に難くない。さらに、爆死事故の現場を車で通り過ぎる時には、その車からサイケりの奇人ARTHUR BROWN“FIRE”が聞こえてきて、ますますキャラが怪しさを帯びてくる。

 といった具合に、音楽ネタだけでも語れることの多い一編。エンドクレジットの最後にかかるJON SPENCERはブリティッシュ・ロックじゃないけれど、これはやたらとかっこ良かったな…。

 ジャケは迷いますが、FRATELLIS、今年リリースのピクチャー・アナログ盤のシングル“BABY FRATELLI”を。A面にタイトル曲、B面に“SOLID GOLD EASY ACTION”を収めています。

エッジー・イン・ブリクストン [DVD]

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