荒野へ

gakus2008-02-22

 アカデミー賞のノミネートに名を連ねているポール・トーマス・アンダーソン監督の『ゼア・ウィル・ビー・ザ・ブラッド』(4月公開)、アカデミー賞には無視されたけれど、評価は極めて高いショーン・ペン監督の『イントゥ・ザ・ウエスト』(秋公開)。どちらもアメリカの野性をみなぎらせた力作。そして、どちらも現役のミュージシャンが音楽を提供している。前者はレディオヘッドジョニー・グリーンウット。後者はパール・ジャムエディ・ヴェダー

 『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』は、20世紀初頭のカリフォルニアを舞台に、石油採掘に取りつかれた男(ダニエル・デイ=ルイス)の執念を描いたドラマ。石油のためなら信仰を変え、愛息をも遠ざけててしまう主人公は、オイル・オタクというべき狂気を宿している。油田を追って荒野を渡り歩き、採掘のためなら寂れた田舎町への投資もいとわない。これが延々2時間半に渡って描かれるのだから、重い。そしてジョニー・グリーンウッドの不協和音が連続する実験的音楽の迫力。これもスゴい。殺伐とした田舎の風景をに拍車を印象付けるに十分。観客を落ち着かせなくさせる彼の音楽は、“重さ”の大きいパーツを占めていると言っても過言ではない。

 一方、ノンフィクション小説の映画化である『イントゥ・ザ・ワイルド』は、文明に背を向けてアラスカの大自然の中で生きることを決意した青年の破滅的な生の物語。エディ・ヴェダーは、ここで数曲提供しているが、それはいずれも初期ボブ・ディランをほうふつとさせる弾き語りナンバーがメイン。主人公は捨てられたバスの中で暮らそうとするのだが、そこは夏は陽光が降り注いで荒れ果てた大地を照らし、冬は積雪で寒々しい。ヴェダーの歌は寂寞とした空気を漂わせ、また孤独を歌いながらドラマを鮮烈に盛り上げる。これも2時間半20分強の長尺。

 どちらも観光名所とは言いがたい、荒涼としたアメリカの一面を映し出す作品。決してポストカードになることはない、むきだしの狂暴さを秘めた殺風景な大地。それが音楽によって引き立てられているのは、注目すべきだと思うんだけど、アカデミー賞の音楽関係の賞にはガン無視された。前者はベルリン国際映画祭の銀熊音楽賞を、後者はゴールデングローブ賞最優秀歌曲賞を受賞したにもかかわらず。ディズニー映画の楽曲を3曲もノミネートさせてるようでは、保守的といわれてもしょうがねえだろう…などと勝手なこと思ってしまう、オスカー間近の今日この頃。主要部門ではないだけに見過ごされやすいけれど、これらの作品の音楽の凄さは語り継がれてほしい。

 ジャケはJOHNNY GREENWOODが2004年にリリースしたシングル『DUTY LUX』。正直に打ち明けると、この人のレコはコレしか持っていなくて、聴いてみたら退屈でアルバムを買うのを止めた。パール・ジャムのアルバムも一枚も持ってません。つまり、どちらのアーティストにもほとんど思い入れがない。そんな自分でも、この2作の映画における彼らの働きぶりはもっと評価されるべきだと思う。

ゼア・ウィル・ビー・ブラッド [DVD]

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イントゥ・ザ・ワイルド [DVD]

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