強い男の真実

gakus2010-04-01

 切り裂きジャックの真相に迫るアラン・ムーア原作、ジョニー・デップ主演のスリラー『フロム・ヘル』以来、久しぶりにアレン&アルバート・ヒューズが手がけた『ザ・ウォーカー』(6月公開)は、彼ららしいスタイリッシュなビジュアルが映えるポスト・アボカリプス・ストーリー。

 文明滅亡後のアメリカを西へ向かって、ひたすら歩き続ける男(デンゼル・ワシントン)。彼は一冊の本を、ある場所へ届けるというミッションを背負っていた。が、どうやらこの本は強大な力を秘めているらしく、荒野で町を築いた権力者(ゲイリー・オールドマン)は血眼になって、この本を探し求めている。やがてその街にたどり着いたデンゼルは、ゲイリーー派との壮絶な戦いを余儀なくされる…。くすんだ色合いの荒野の風景も鮮烈だし、蛮刀で悪党どもをバッサバッサとやっつけるデンゼルの活躍ぶりもイカす。映像だけでなく、ドラマも神話チックで見応えアリ。デンゼルはプロデューサーも兼任していて、なるほどストイックでかっこいい。加えてラストでは意外な秘密が明らかになる。

 戦闘能力に長けて、なおかつ禁欲的なデンゼルだが、意外な脆さは音楽で表現される。旅の途中、廃墟で一夜を過ごす彼は、愛用の旧式iPodを耳にして寝床に着く。子守唄代わりに流れてくるのは、Al Green、1972年のヒット曲"How Can You Mend a Broken Heart"。悲しげなソウル・ボーカルで“どうすれば壊れた人間が、壊れた心が、立ち直れるのか? 助けてくれ”というフレーズが響く。デンゼルの心の奥底に秘めた叫びの代弁か。ともかく、彼はこれを子守唄にして眠りにつき、翌日になればいっさい泣き言をもらさず、また黙々と歩き続ける。

 ジャケはアル・グリーン、この曲を収めたベスト盤。オリジナルのビー・ジーズのバージョンも有名だが、こちらも負けておらず、映画では他にも『グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち』や『セックス・アンド・ザ・シティ』でもフィーチャーされていた。