押しますか?

gakus2010-04-08

 『ドニー・ダーコ』『サウスランド・テイルズ』で時代の空気を鋭角に切り取ったリチャード・ケリーが、キャメロン・ディアスを主演に迎えた新作『運命のボタン』(5月公開)。これまた過去2作と同様にトンデモな展開で、1970年代を舞台にしながらも”今”の映画になっていた。

 足の不自由な女教師ノーマ(キャメロン・ディアス)はNASAに勤務する夫(ジェームズ・マースデン)、ひとり息子と暮らしている。ある日、彼らの元に顔面が欠如した謎の紳士(『フロスト×ニクソン』のフランク・ランジェラ)がボタン付きの箱を渡し、驚くべき提案を持ちかける。”このボタンを押せば、あなたに100万ドルを差し上げよう、ただしその引き換えに見知らぬ誰かが命を落とす”…モラルに葛藤しつつも、生活に困っていた夫妻はボタンを押してしまう。それが彼らをトンデモない世界へ引きずり込むとも知らず…。

 この後、話がどんどんSFっぽく、かつスリラーっぽい展開になっていくのはケリー作品に慣れた方なら、やっぱりね、という感じだろう。何も知らない人が見たら、トンデモ映画ととられかねないが、原作がリチャード・マシスン(『アイ・アム・レジェンド』)だから、観客に”あなたならどうするか?”という問いかけを投げかける点に妙味がある。こんな不況の時代だから、ボタンを押す・押さないの決断は重くならざるをえない。自分は、やっぱり押しちゃうだろうな…。

 この映画、スコアがなかなかおもしろくて、ストリングスの不協和音は60〜70年代のスリラーっぽい、今聴くとチープな作り。原作が『トワイライト・ゾーン』でも映像化されたことがあり、この時代の音楽を確信犯的に意識している。見終えてから知ったのだが、この音楽を手掛けているのがカナダのバンドの中では、現段階で21世紀を代表すると言っても過言ではないアーケイド・ファイアのメンバー3名。このスコアの一方で、彼らは今年、待望のニューアルバムを発表するらしい。

 さて、1970年代が舞台だから、既成曲のフィーチャーもその時代のもの。印象に残ったのはパーティのシーン、キャメロンとマースデンが踊るDEREK & THE DOMINOSの”BELL BOTTOM BLUES"。”俺は消え去りたくない”と切々と歌われるのだが、マースデンはこの後、次元を超えて消えてしまうことに…。

 この曲はもちろん名盤『いとしのレイラ』に含まれているが、以前にものっけた記憶があるので、代わりにエリック・クラプトンのクリーム以降のキャリアを総括した編集盤『THE CREAM OF CLAPTON』を。1995年リリース。