充満する女汁

gakus2010-08-17

 兄エリック・ロバーツが出演している『エクスペンダブルズ』に敗れ、先週末の全米興収チャートでは2位に甘んじたジュリア・ロバーツ(とりあえず祝・初来日)主演の『食べて、祈って、恋をして』(9月公開)は、『エクスペンダブルズ』を見たいと思う観客が、まったく見向きもしないであろう女性映画。日本でも同タイトルで出版されている、エリザベス・ギルバートの自伝的・ベストセラー小説の映画化です。

 ジュリアふんするNYのジャーナリストが、満たされぬ思いに苛まれたあげく、離婚してインド思想にかぶれている若い役者(ジェームズ・フランコ)との恋に走る。それでも何か足りないと、破局を選択した彼女は世界をめぐる旅を決意。イタリアではひたすら“食べて”、インドではフランコの傾倒していたグルを訪ねて寺院に落ち付き“祈って”、バリではバツイチの男(ハビエル・バルデム)と“恋をして”…。つまるところ、アラサー女性の自分探しのお話。

 こういう映画を見ると女性向けグランイドハウス映画の存在と、その凄みをつくづく感じる。男性向け映画では大ヒット中の『エクスペンダブルズ』は例外として(大ヒットといっても最終的には1億ドルいくかいかないかのラインに落ち着くだろうし、メジャー・スタジオとは言い難いライオンズケート作品だし)、ロブ・ゾンビイーライ・ロスのホラーやスティーブン・セガール映画のように、ビッグ・ビジネスにはなりにくい。しかし、メジャー・スタジオが『食べて〜』のような作品を製作するのは、『セックス・アンド・ザ・シティ』『マンマ・ミーア!』のように、女子グラインドハウス映画が大成功する可能性があるからだろう。

 女子グラインドハウス映画の場合“オシャレ”と“ロマンス”があれば、同性には憧れをもって見ることができる。男の目から冷静に見ると“こんな自分勝手なヒロインが金の力にモノを言わせ、気ままに世界一周かよ…”と皮肉のひと言も言いたくなるところだが、どうも多くの女性にはそうは映らないようで、むしろチャーミングに見えてしまうらしい(オバチャンたちが、時代劇で使用されている高価な着物を見て”いいわねー”とため息をつくような感覚か!?)。これは男子がバイオレンスやスプラッターに狂喜するのと大差ないのかもしれない。

 で、やっと音楽の話に突入するんだけど、こういう映画にスライ&ザ・ファミリーストーン“THANK YOU”はまだしも、ニール・ヤング“HEART OF GOLD”のような名曲が使われていると、男子としては複雑な気分。ヒロインがイタリアで享楽三昧しているシーンで延々と流れるもんだから、なおさらだ。“これも「金の心」を得るための過程なんですよ”と言われても、ちょっと軽いなあと思ってしまう。エディ・ヴェダーの書き下ろし曲まであるのだから、音楽だけ追っていると“硬派なテーマがあるのかもしれない”と惑わされたり。

 ひとつ面白いな、と思ったのは、ジュリアとハビエルのセリフのやりとり。“エア・サプライやフィル・コリンズのミックス・テープも作っている”とハビエルが喜々として話すと、シュリアが眉をひそめて“他の人に聞こえるわよ!”と注意するところ。そう、この辺の80’sのアーティストを好きということは、特定の世代には禁句的なものであるらしい。それを踏まえると、『ハングオーバー!』でマイク・タイソンフィル・コリンズの曲に陶酔していたのもギャグの一環だったのだなあ、と腑に落ちる。

 で、ジャケは↑このトレーラーで流れているFLORENCE +THE MACHINE“DOG DAYS ARE OVER”を収録した2010年リリースのリイシューシングル盤。“負け犬の日々はおしまいよ”というフレーズが物語のテーマを言い当てている上に、旬のバンドだから、きっと映画で流れるだろうと踏んでいたら、劇中では影も形もなかった。