自然体で行こう

gakus2011-10-24

全米公開から一年ほど間が空き、ようやく日本にもお目見えする『ラブ&ドラッグ』(11月公開)は、全米でベストセラーとなった原作に基づくロマンチック・コメディー。1990年代にバイアグラを広めて、全米一の製薬セールスマンとなったジェイミー・ベルのベストセラー手記を原作にしている。とはいえ、映画のラブストーリーの部分は原作にはない架空の要素。

 プレイボーイの素養を活かして製薬会社のセールスマンとなったものの、実績が上がらない青年(ジェイク・ギレンホール)。そんなある日、彼は営業先の病院でパーキンソン病を患う若い女性(アン・ハザウェイ)と出会う。難病ゆえに未来に怯える彼女に、青年はこれまで知り合った女性にはない魅力を感じ、体だけの付き合いはやがて本気の関係に。そうこうしているうちにバイアグラを扱うようになったジェイミーは、メキメキと業績を上げるが、一方で彼女の病状は悪化し…。

 話だけ聞くとありがちなお涙頂戴モノと思われるかもしれないが、そこは『ラストサムライ』の職人エドワード・ズウィック、感傷に溺れず、リアリティと軽やかさをもって物語を語る。全米公開時にはギレンホールとハザウェイの全裸ラブシーンのオンパレードが話題となったが、それにしても嫌味がなく、ラブストーリーの部分に説得力をあたえてる。アンの全裸姿が健康的過ぎて病人に見えないのが問題といえば問題か。

 時代背景を反映して音楽は90年代のロックが中心。ジェイクが上司の恋人である同僚に手を出し、最初の勤務先である電気屋をクビになるシーンの直前にSPIN DOCTORS"TWO PRINES"(この同僚の気持ちか!?)、直後にBREEDERS"CANNONBALL"が流れ、ヒロインの部屋ではLIZ PHAIR”SUPERNOVA”が聴こえてくる。ジェイクが車で聴くのはFATBOY SLIM”PRAISE YOU”で、クライマックスでは馬鹿男を笑うかのようにBECK"JACK-ASS”、といった具合。

 そんな中で、60年代のナンバーも溶け込んでいるから面白い。カフェではBOB DYLAN"STANDING IN THE DOORWAY"が流れているし、ジェイクとアンのやりまくり初期のコラージュでフィーチャーされるのはKINKS"A WELL RESPECTED MAN"だ。こうやって並べると、アコースティックな60年代ナンバーも90年代のオルタナの音も素朴な音色を大切にしているためか、違和感なく響く。逆に80年代のエコーがギンギンのサウンドは、ここではほとんどギャグで、ジェイクがバイアグラを売り始めるシーンで流れるBELINDA CARLISLE"HEAVEN IS A PLACE ON EARTH"は昇天セールスにはまり過ぎて笑えてくる。

 ジャケは1997年リリース、ベックのシングル『JACK-ASS』、UK盤。