精神世界に生きる

gakus2011-11-16

 ジョージ・ハリスンの生涯を『シャイン・ア・ライト』のマーティン・スコセッシが撮るのだから、こりゃあ期待も高まる『ジョージ・ハリスン/リヴィング・イン・ザ・マテリアル・ワールド』が来月のDVDリリースに先駆け、今週末より劇場公開される。

 1部、2部構成の大作と聴き、同じスコセッシの『ボブ・ディラン/ノー・ディレクション・ホーム』のような、ある時期のピンポイント的なストーリーを想像していたが、意外にこれがオーソドックスな伝記というべき内容。第一部はビートルズの一員として富と名声を手に入れるまでが追われており、これだけ見ると”今まで散々見てきたビートルズ・ストーリーの焼き直しかあ…”と思えなくもない。同時に、ここまで(ゲット・バック・セッションの前までなので68年ごろ)が半分ということは、この後30年以上が駆け足になるのか…という不安がよぎる。

 第2部は実際、駆け足と言えば駆け足なのだが、年代記的な構成だった第1部とは構成が異なってくる。ビートルズ解散あたりまではほぼ順を追っているが、ここからがエピソード切りとなり、友人のために開催したバングラデシュ・チャリティ・コンサート、『ライフ・オブ・ブライアン』への出資に始まる映画製作熱、F1レースへの入れ込み、ボブ・ディラントム・ペティらとのユニット、トラヴェリング・ウィルベリーズの結成と、逸話が連なり、強盗犯の侵入を経て、闘病〜死へと至る。ソロ期にしてもほぼ年代順ではあるのだが、このエピソードの羅列が、タイトルに関わってくる。劇中ジョージは”物質世界の本質は変化”と語り、盟友エリック・クラプトンも”ジョージは物質社会の否定と、信仰を求めていた”と述べる。そこから見えてくるのは、自分の心にしたがい、物質ではない”求めるべきもの”を手にしようとした男のストーリーだ。第1部でジョージがインドに行き、精神世界の追及にはまったことについて言及されるが、ここにきてそれが生きてくる。

 ジョージが求めたのは人と人とのつながりであったり、心の平安であったり、エキサイトできるものであったりと、さまざまだが、富と名声はそれらを手に入れるために活かされた、という見方ができる。それを踏まえて、ジョージと最後に会ったときを振り返るリンゴ・スターのインタビュー映像を見ると、涙目になっているリンゴと同様に、こちらも泣けてくる。

 当然、ここではジョージが遺した曲がふんだんに使われているのだが、ひとつ気になったのはそこにダークホース・レーベル期のナンバーが一曲もないこと。F1なら“FASTER”、映画なら“DREAM AWAY”、ジョン・レノンの訃報以後なら“ALL THOSE YEARS AGO”など、使い勝手のある曲がたくさんあるのに。もちろん、ダーク・ホース時代の最大のヒット曲“SET ON YOU”も聴けない。遺作『BRAINWASHED』から何曲か使われているので、選曲的には後期代表曲がスポッと抜け落ちている。はこれは契約上の問題からくるものなのか。第2部で年代記にできなかったのは、この辺の事情もあるかもしれない。

 ジャケはダークホース期のナンバーを集めたGEORGE HARRISONのベスト盤『THE BEST OF DARK HORSE』。オリジナルアルバム未収録の『リーサル・ウエポン2 炎の友情』の主題歌“CHEER DOWN”も収められています。