五分五分

gakus2004-11-06

 本日からバウスシアターで“爆音ロードショー”され、来週にはDVDリリースされる「ジョー・ストラマー/レッツ・ロック・アゲイン!」。故ジョー・ストラマーの生前最後の日本〜USツアーを負った、このドキュメンタリーは、すべてのロックファンに観て欲しい。

 ザ・クラッシュ/THE CLASHのフロントマンとして時代を築いたジョーは、この映画が作られた2002年でもカリスマである。多くのファンが彼に感謝の意を述べ、サインを求めてくる。その一人一人の声を聞き、律儀に答えるジョー。トロントではステージの後、3時間も話好きのファンにつきあい、何枚もサインするハメになったという。

 しかし現在進行形の新バンド、メスカレロスを率いての活動は必ずしも順風満帆ではない。日本はまだしも、アメリカではライブの集客もイマイチ。そこでジョーはみずから地元のラジオ局をまわってライブの宣伝をして、自分の曲をエアプレイしてもらおうとする。イギリスならいざ知らず、アメリカの田舎となるとジョーの知名度も低い。ラジオ局の人間に“あなたはどんな音楽をやってるのと?"と訊かれ“昔クラッシュというバンドをやってたからロックかな”と答える。さらに街頭で、ライブを告知する手書きのビラを道行く人々に声をかけながら配り歩く。レコード店をまわって演奏もする。

 多くのミュージシャンが曲を作りだすときに、音楽が自然とあふれ出てくるというがどうかと問われ、ジョーはこう答える“くだらん。頭から必死にたたき出すしかないんだよ”。

 メスカレロス、1999年ののファーストアルバム『Rock Art And The X Ray Style』(写真)は、期待したほどのセールスを上げられず、レコード会社は赤字を抱えることになった。“とっくに追い出されてもおかしくない。だから次のアルバムでは赤字を埋めないと。メスカレロスを解散させないためにも、なんとかフィフティ・フィフティに持ち込みたい。生き残るための戦いだ”とジョーは言う。

 リムジンでふんぞりかえってるのがロックスターであるならば、ジョーは負け犬だろう。かつてのクラッシュの栄華を思えば、なおさらだ。それにクラッシュはパンクロック革命の敗北を認めた、数少ないバンドである。しかし、挫折を認めたところで人生は続くし、続く以上は生きていかなければならない。ここで描かれるエピソードは、ジョーがいかに必死で生きてきたかを伝えるに十分だ。地に足をつけて働く、すなわち歌い続けようとする。それが“生きる"ことでないとしたら、なんなのだろう。“無人のステージで演奏したことがあるが、あれをやると次には人間ひとり、犬一匹にも感謝するようになる”“俺は自分を下働きだと思ってる。それは事実だし、調子に乗りすぎることを防いでもくれる。それにしょせんは誰もがそうなんだ”…ジョーの一言一言に、ハッとさせられる。勝利する必要はないが、好きなことを続けるためにもフィフティ・フィフティでありたい。そのためには、やはり必死で生きるしかないんだよ…。

 以下余談。映画で描かれるメスカレロスの2度目の来日公演は観ていないが、その前の来日公演は、とても感動的だった。CLASHの曲とメスカレロスの曲を織り交ぜた構成。『POLICE ON MY BACK』ではわざわざ“これは大好きなイコールズのナンバーだ"とMCを入れる。今やCLASHのバージョンの方が有名だし、黙ってやっても盛り上がるのに、である。往年の切り札も、これみよがしに演奏することなく、あくまで今のバンドの音として鳴らすその姿勢に震えた。会場の後方では、ジョーの娘さんがステージを観ていた。こんなお父さんになりたいと、妊娠8か月の嫁を置いてライブを観にきたダメ・パパは思ったとさ…。

レッツ・ロック・アゲイン! [DVD]

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VIVA JOE STRUMMER プレミアム・エディション [DVD]

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