引き続き、イギリス映画の当たり年

gakus2013-03-08

 ほぼ1年ぶりに更新。生きてます!

 昨年からのイギリス映画の好調は今年も続いており、見る映画に当たりが多い。上映は終わったが、『ロンドンゾンビ紀行』は老人とゾンビの史上最遅のチェイスに笑ったし、『ジャッジ・ドレッド』も『ザ・レイド』と似た設定で割を食った感はあるものの限定空間の濃密さで見せ切るエキサイティングな快作だった。今月公開の『シャドー・ダンサー』も派手さはないがIRAの闘争に飲みこまれるアイルランド女性の悲劇が日常レベルで伝わる力作。この先も、バイブレーター誕生秘話を英国映画らしい品のいい笑いで包んだ『ヒステリア』や、『さらば青春の光』と同じブライトンが舞台でショートカットのダコタ・ファニングが尋常じゃないほどかわいい青春劇『17歳のエンディングンノート』、現代ロンドンの空間の寒々しさと、刑事VS犯罪者の対決の熱の対比が面白いハードボイルド『ビトレイヤー』など、個性的な作品が並ぶ。

 しかしダントツは、やはりケン・ローチ。去年のカンヌ国際映画祭で審査員賞を受賞したこともあり、どんだけの力作かと思いきや、コレが肩の力が抜けたコメディ。といっても、もちろんバカバカしい類のものではなく、庶民生活の悲喜こもごもがベースとなっている。主人公は、ケンカっ早い性格が災いして逮捕され、労働奉仕を命じられた青年。恋人の出産が間近であることから、心を入れ替えた彼はマジメにこれを務め上げようと決意する。そんなある日、理解ある指導員に連れられて出かけたウィスキーの醸成場見学で、彼にテイスティングの才能があることが判明。俄然ウィスキーに興味を抱くようになった彼は、その才能を駆使して一大詐欺を企てる…。

 この映画の何よりの魅力は、主人公のキャラクター。劣悪な環境に育ち、カッとなって暴力をふるっては補導されている一方で、気持ちいいほど純朴で、生まれてきた赤子をだっこして”この子のために二度と暴力は振るわない”と誓ってそれを守り、労働奉仕仲間が悪さをしようとすると”指導員に迷惑かかるからヤメレ”と注意したり。それもこれも、恋人にベタ惚れだから…という背景あり。

 そんな本作でメインテーマ的に使われているのが、プロクレイマーズ'88年のヒット曲”I'm Gonna Be (500 Miles)”。”朝目覚めると君が隣にいて欲しい〜酔っ払う時も隣にいてほしい〜君に会うためなら500マイルでも歩く”というベタベタのラブソングも、この主人公に重なると微笑ましく、”オマエ、そんなに彼女が好きかー”と、肩のひとつでも叩いてあげたくなる。シンプルなアレンジの曲だから、ケン・ローチの作風にもマッチしているのでは。

 画像はThe Proclaimers、88年のUK盤シングル。この曲はジョニー・デップ主演の『妹の恋人』で使われていたのが有名。最近では公開中の『バチェロレッテ あの子が結婚するなんて!』でもフィーチャーされていた。