修羅場をくぐったボーカル
デジタルカメラで撮影された低予算作品ながら、ガス・ヴァン・サントやジョン・キャメロン・ミッチェル(「ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ」の生みの親)らに見出され、注目を集めたドキュメンタリー「ターネーション」(8月公開)の話。
ジョナサン・カウェットという若い映像作家が自分史を振り返るという、パーソナルな作品。父の顔を知らず、精神を患う母親に育てられ、里子に出された先で虐待され、NYに出てゲイの恋人を作るジョナサン。そんな彼が、病の悪化した母を引き取り、ともに暮らすまでを、実験的なコラージュ風の映像で写し出していく。母との葛藤を主軸に置いた構成は、ジョナサンの愛情の飢餓を伝えるに十分で、時に涙を誘う部分もある。ただし、自分史という内容ゆえに自意識を見せられたと露骨に嫌悪する人がいてもおかしくないよなあ…。そんな具合の、オルタナティブな性質の作品です。
BGMは全体的に渋めで、有名どころではボブ・ディラン、マリアンヌ・フェイスフル、ドリー・パートン、インディー系ではリサ・ゲルマーノ、レッドハウス・ペインターズ、LOWなどの音楽が使われている。ドライな作風の映像にあっては、情感を醸し出すパーツとしてうまく機能していると思う。
マリアンヌ・フェイスフルは1979年の『THE BALLAD OF LUCY JORDAN』の起用。このころのマリアンヌはアルコールとタバコで声がボロボロだが、それゆえの迫力と凄みがある。この枯れた雰囲気は映画の中のジョナサンの母親にそのまま重なる。そういえば、「テルマ&ルーイズ」でこの歌が使われたときも、スーザン・サランドンのハスキーな声とダブッた。修羅場をくぐり抜けた者の歌声、それは劇中のキャラクターの声のようでもある。
ジャケはこの曲を収めた1979年のアルバム『BROKEN ENGLISH』。
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