彼も人なり

gakus2006-04-20

 何度かここで記した元ローリング・ストーンズの故ブライアン・ジョーンズの映画「STONED」が、「ブライアン・ジョーンズストーンズから消えた男」というタイトルで7月日本公開される。一映画ファンとして観ると面白く興味深いが、ストーンズ・ファンとしては複雑な心境になる作品でした。

 映画は1969年4月、ストーンズ内で孤立し、ロンドンから離れてコッチフォード・ファームに移り住んだブライアンと、ストーンズのロード・マネージャー、トム・キーロックの推薦でコッチフォードの改築にあたることになった建築業者フランク・ソログッド(ブライアンを殺したとされる人物)の出会いから始まる。基本的にはその時点からブライアンが死に至るまでの3か月間のドラマだが、ブライアンの回想が平行して描かれ、キース・リチャーズとの三角関係によるアニタ・パレンバーグとの破局などの過去の出来事が語られ、ブライアンがどのようにストーンズから孤立していったのかが浮き彫りにされる。

 視点として面白いのは、ソログッドの人間性が描かれていること。ブルーカラーの彼には、自分たちのセックスライフを写真に撮ったり、ゲームのように恋愛を楽しんだりしているロックスターの享楽的な生活が理解できず、とまどいを隠せない。それでもキーロックに“ブライアンに気に入られろ"と叩き込まれた彼は、ブライアンを理解しようと務める。アーティストの常識と庶民の常識の間に横たわる深い溝は、「愛の悪魔/フランシス・ベイコンの歪んだ肖像」などでもテーマとなっていたが、それを打ち出している点が興味深い。

 やがてブライアンは工事の遅れを理由にソログッドを解雇しようとするが、ソログッドはソログッドで職人たちに賃金を要求され、ブライアンとの間で板ばさみになり、ストーンズの事務所を訪れてこれまでの給料を請求するが、スタッフに嘲笑されるだけ。この八方塞にがソログッドを犯行に駆り立てる。つまり、ソログッドにも弁解の余地があった、というわけだ。

 ここで描かれるブライアンは、ドラッグを断っていたとはいえ、気まぐれなロックスターで、ソログッドの工事の邪魔をしたりする。そういう点を踏まえると、ブライアンは自分で引き金を引いてしまったといえなくもないが、それでもファンとしては複雑。極端な例になるが、マーク・チャップマンを同情的に描いた映画を観たいと思うジョン・レノンのファンはいないだろう。

 ジャケは1964年のヒット曲『LITTLE RED ROOSTER』、国内盤で1970年の再発盤。映画のオープニングにフィーチャーされるこのナンバーはスタジオ・ミュージシャンによるカバーとのことだが、見事なコピーで、一瞬オリジナルと間違えそうになる。<関連エントリー>
http://d.hatena.ne.jp/gakus/20050119
http://d.hatena.ne.jp/gakus/20051122
http://d.hatena.ne.jp/gakus/20060329