改めて、自由を
今回の震災と、それに付随する余波の受け止め方は人さまざまで、自分もそれなりに大きなショックを受けました。ただ、深刻な被害に遭われた方には正直、何を言って良いのかわからない……というのが、東北から離れて暮らしている人間の正直なところだと思う。今はただ、すべてが良い方向に転がることを祈るのみです。
余震が続き、放射線量が倍増しているこんな時に父親として、またエンタメ業界の末端にぶらさがっている三流業界人として何ができるのだろう。そして映画に、何ができるのかを職業柄どうしても考えてしまうのだけれど、結局はどんな小さいことでも、自分にできることを地道に積み重ねるしかない。そんなこんなで、開店休業状態のこのブログもボチボチと再開していこうと思います。
今日のお題は”サッカー・パンチ”改め『エンジェル ウォーズ』(4月公開・邦題については、あえてノーコメント)。『ウォッチメン』のザック・スナイダーが、初めてオリジナルの企画を手がけたことで注目されていたものの、全米での圧倒的な不評とそれによる興行的失敗で株が急激に下がりまくっているが、個人的には支持したいと思っている。
遺産目当ての腹黒い継父によって精神病院に送られた少女ベイビードール(『ゲスト』も印象的だったエミリー・ブラウニング)は、ロボトミー手術の間際に別次元へと意識を飛ばす。そこには、この拘束状態から脱するための鍵があった。日本人風情の導師(スコット・グレン怪演)に誘われ、さらにる空想の世界に飛んだ彼女は、自由を得るための5つのアイテムを求めて精神病院の患者である女の子たちとともに、熾烈な戦闘へと身を投じる…。
イマジネーションが二重・三重と層をなか構造は『インセプション』風。スナイダー流の劇画的な描写は、いつもながらの筆圧の強さで迫って来て、見ているだけで迫力を体感できる。一方、アクション面に関していえば、脚線美とパンチラのオンパレードで、コリー・ユン(『クローサー』『DOA/デッド・オア・アライブ』の監督)がアクション演出をしているのではないかと思ってしまったほど。この複雑な構造(というより、むしろ混沌)が、タフなテーマを伝えづらくしているのは惜しいところ。
話術の点では、かくのごとく硬軟とりまぜ過ぎて混乱しているが、よくよく目を凝らすと”イマジネーションこそ自由を得るための武器なのです”というテーマが見えてくると思う。自由を奪われたベイビードールにとって、空想こそが唯一の自由。それを現実世界で流用することができるなら、真の自由を得るうえでこのうえなく強い武器になる。そんなメッセージを受け止められたことが自分としては大きな収穫だった。
ベイビードールと仲間たちが空想を駆使して飛ぶ戦場は多彩で、日本庭園での剣のバトルを皮切りに、ある時は『バイオハザード』のごとくゾンビ集団と戦い、ある時は第二次大戦期の塹壕のようで、またある時は『スター・ウォーズ』的なロボット兵団とバトルする。これらのバトルフィールドの一階層下にはショウ・ダンサー養成所に監禁されたベイビードールの空想世界があり、そこで踊る度に彼女は、それぞれのバトルフィールドに飛ぶことになる。
で、バトルフィールドの多彩さに併せて、そこで流れる曲のテイストも異なってくる。ビョークの『ARMY OF ME』(これは元々、映画『タンク・ガール』の挿入歌だったはず)が無機質なビートを奏でたかと思えば、エモっぽいメロディアスなパンク・チューンが聴こえてきたり、ビートルズ”TOMORROW NEVER KNOWS"の女性ボーカルによる泥沼的カバーが鳴り響いたり。これらの選曲の変化の面白さが味でもある。
また、この映画ではヒロイン、ブラウニングが自分でオルタナの名曲をカバーしていて、ユーリズミックス"SWEET DREAMS"、ピクシーズ"WHERE IS MY MIND”等がシーンに併せて歌われるのだが、とりわけグッときたのはザ・スミスの"ASLEEP”のカバー。"もう目覚めたくない”という歌詞は、ヒロインの心情にハマッて、わけもなくジーンときてしまった。もちろん、ブラウニングが自分で歌っているという仕掛けも効いているはず。
ジャケは、THE SMITHS"ASLEEP"をB面に収めた『THE BOY WITH THE THORN IN HIS SIDE』、1985年リリース。このジャケは2度以上、このブログで載せたと思うが、自由への渇望感の表われととれなくもないデザインが素晴らしいので、改めて。
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