あるシンガーの愛の話

gakus2008-10-06

 祝、初単独来日、もちろん行くぜ! というワケで、THE WHOのドキュメンタリー『ザ・フーアメイジング・ジャーニー』が、11月に劇場公開される。

 メンバーの生い立ちから結成、成功、解散、再結成、現在までを年代的に追っていく構成で、ピート・タウンゼントロジャー・ダルトリーはもちろん、新旧マネージャーのインタビューもまじえて軌跡をたどる。わかりやすい流れなのでザ・フーを知らないファンでも楽しめるが、初出の”HEATWAVE"のライブや、『ライブ・アット・リーズ』の映像、ピートが”ヒドい演奏だった"という"WHO ARE YOU"の初演など、レアなビジュアルもあるからファンも必見…などと言うまでもなく、皆見に行くよね。

 それにしてもロジャー・ダルトリー。この人は昔から、バンドの創始者なのにカリスマ性がなくて、でもフロントマンという微妙なポジションにいるなあと不思議に思っていたけれど、この映画を見てその謎が一気に氷解した。ロジャーは若い頃ケンカっぱやいチンピラ的体質で、腕っぷしが強くて、親分肌だったようだ。しかし1966年、デビュー後、間もなくピートと大ゲンカを演じ、”こんなチンピラとやってられない”とグループを追い出される。”あいつの苦悩を理解していなかった。ジョンもキースも俺も天才だが、あいつはただのシンガーだったから”と当時を回想してのたまうピート。4週間後にバンドに戻ったロジャーは”バンドの声になること”を決意し、華々しい成功を収めた1969年のアルバム『トミー』で、それが実現したことを実感する。

 1982年の解散後(敗戦処理のように故キース・ムーンの後釜に座ったケニー・ジョーンズのコメントも切ない…)ジョン・エントウィッスルが財政的に困窮し、彼を立ち直らせようと、ピートに再結成話を持ちかけたのはロジャーだった。ピートが昔の曲を再演することに意義を見出したのも、ロジャーがいてこそだった。”あいつは俺の曲に命を吹き込む最高の表現者だ"と現在のピートは語る。ピートが幼児ポルノの所有で逮捕され、マスコミに散々叩かれたとき唯一擁護したのも、やはりロジャーだった。

 他、目からウロコのエピソードがたくさんあるのだが、ネタバレするのもナンなので控えるが、あとひとつ。ロジャーが最後にピートについて”ヤツは天才だ。俺は彼を愛してる”と言い切る。ここまでくると、もう涙ナシでは見られませへん…。才能がないと言われたロジャーは30年以上の歳月を費やして”天才”ピートとの絆を築いたのだから。自分のやれることを精一杯やり続けた凡人が、天才と通じ合うまでの記録とでも言おうか。言うまでもなくキースやジョンの死の逸話にも感傷的になるが、それ以上に生き残ったふたりの”愛”が印象的な映画だった。

 ジャケは1970年リリース、ケチのつけようがないライブ・アルバム『LIVE AT LEEDS』。

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