石井聰亙作品2題

gakus2004-10-22

 石井聰亙が撮ったビデオ作品を二つ観ました。

 ひとつは「三人三色」というオムニバスで、アジアの俊英3人がデジタルフォーマットで撮った短編集。「殺人の追憶」のポン・ジュノ、「天上の恋歌」のユー・リクァイとともに、石井聰亙が参加。映画作りに行き詰まった女優兼脚本家の苦悩の旅路を描いていた40分ほどの作品。“自作のなかでもっとも私的な内容”と語られるが、これは昔の恋人の実体験を映画にしたものだという。ヒロインの内面に寄り添うかのように、その一点からブレることのない視線。石井作品にしては珍しく、屈折感を抱かせなかった。

 もうひとつはルースターズのBOX SETに収められていた「RE:BIRTH」というドキュメントで、今年の夏のフジロックに、LAST LIVEという名目で再結成ライブを敢行したルースターズの記録映像。このライブを見れず悶々としていたのは7月30日7月31日の日記に記したとおり。石井聰亙が現地で何か撮っていたという噂は耳にしたが、こういうかたちで発表されたのは嬉しい。ボーカルの大江慎也が病気で離脱したのは1984年のことで、このメンバーによるフルセットの演奏はじつに20年ぶり。在籍末期の大江はギターを持てないほど衰弱していたが、ここでは最初から最後までギターをかき鳴らしている。ルースターズ在籍末期にはギターが持てなくなるほどになり、フェイドアウトしてしのった大江の姿は石井監督が撮った「パラノイアック・ライブ」でも確認できる。それから20年を経て、現役のミュージシャンとして再びギターを持つ大江の元気な姿。それこそ、石井監督が見せたかっものではないだろうか。「バラノイアック・ライブ」のよう凝った映像処理は皆無。淡々とメンバーをとらえている。

 どちらも、石井監督流の破壊的でラジカルな作品ではないが、撮る対象を頭のなかでこねくり回さず、真っ直ぐにとらえていて興味深かった。年を取って丸くなったなんてことはないだろう。“大切なもの"を撮ろうとする愛情の問題なのではないかと思う。

 写真は大江ルースターズ時代のラストアルバム「Φ(ファイ)」。今にも死にそうな詞もあり、大江の当時の問題の深刻さを物語る。改めて聴いても、重い。