LET IT BE?  NO!

gakus2005-06-30

 メタリカというバンドがいる。ヘビーメタルのジャンルでは一、二の実力者であり、売れっ子でもあるらしいが、個人的には好んで聴きたいタイプの音ではなく、“空耳アワーでよくネタにされていたな"ぐらいの知識しかない。そんな私でも、ドキュメンタリー映画メタリカ・真実の瞬間」(7月公開)は夢中になって観てしまった。

 これは彼らのアルバムのレコーディングを、足掛け3年に渡って追跡したもの。ベーシストが脱退した直後、メンバーはレコーディングのためにスタジオに入るが、その関係はぎくしゃくしている。バンドのマネジメントはセラピストをスタジオに入れてまでレコーディングを進行させるが、ボーカルがアル中の治療でリタイア。一年近い空白の後、レコーディングは再開され、ギスギスした関係はなおも続くが、アルバムは着実に完成へと向かう。

 メンバーそれぞれのエゴがぶつかり合っているのは一目瞭然。とりわけ、ボーカルとドラマーの対立は深刻。当人たちもそれをわかっているようで、議論の場に“ここは慎重に言葉を選んで話さないと"とコボしたりする。しかし口論がヒートアップすると“おまえが「俺たちは」と話すときは、たいていおまえ一人の意見だ"という指摘も飛び出す。こういう胃が痛くなるような現場も、映画は冷徹に見つめているので、そこにあるスリリングな空気が異様な臨場感とともに伝わってくる。

 ホンネをぶつけ合い、怒りギリギリのところで妥協点を模索する。こういう激しい人間関係は、大人になるとどうしても回避したくなるものだ。この映画が感動的なのは、メタリカのメンバーに、それと前向きに向き合おうとする姿勢があり、その結果として彼らの納得のいくサウンドが作り出されているからだろう。

 観ていて、ビートルズのドキュメンタリー『LET IT BE』がどうしてもダブる。あのレコーディング現場のエゴのぶつかり合いも凄かった。メタリカはこの時点で結成20年年だが、当時のビートルズはデビューしてまだ数年。もう少し大人だったら、それともオノ・ヨーコの代わりにセラピストがスダジオにいれば、解散せずに済んだだろうか…まあ今となっては不毛な妄想ですが。とにかく、ジャケはその際の記録『LET IT BE…NAKED』。