ほぼロッキー!?

gakus2011-02-17

 前回の『ランナウェイズ』に続き、今日も実話の映画化モノを。アカデミー賞のノミネーションに名を連ねる『ザ・ファイター』(3月公開)は実在のボクサー、ミッキー・ウォードの苦闘にスポットを当てた作品。『スリー・キングス』のデビッド・O・ラッセル監督が今回もドキュメンタリー風のカメラワーク(劇中ではドキュメンタリー番組が撮られていて、その映像も含まれている)を駆使し、生々しいドラマに仕上げている。

 ミッキー(マーク・ウォルバーグ)にとってボクシングは、いわば家業。今はヤク中の父親違いの兄(クリスチャン・ベイル)も元ボクサーで、現役時は地元の英雄だった。マネージャーを務める母親(メリッサ・レオ)は金になる試合を取り付けているが、時にそれはミッキーの意に沿わないことも。そんなある日、バーテンをしている勝ち気な女性(エイミー・アダムス)と恋におちたミッキーは、彼女の進言もあり、兄が逮捕されたことを契機に家族と手を切り、真剣に自身の可能性を追及しようとする。以来、ミッキーは連戦連勝を続けるが…。

 宣伝素材を見ると、兄弟の絆を描いた感動作といった感じだが、実際は家族や恋人、トレーナーやプロモーターら、バラバラだった周囲の人々をミッキーの熱意がまとめ上げるまでのお話で、その熱意の表われとしてタイトルマッチへの進出というクライマックスが用意されている。『ロッキー』の例を出すまでもなく、この手のボクサーのサクセス・ストーリーに新味はないけれど、ラッセルの客観性を通して目にすると、たとえ結末が分かっていてもグッとくる。

 我慢型ボクサーのミッキーを演じたマーク・ウォルバーグも殴られる描写が多く、そういう点では『ロッキー』的だが、裏を返せばコレをよく演じたものだと感心させられる。が、それでも本作でいちばん目立っているのは、兄役のクリスチャン・ベイルで、よくしゃべるし自己顕示欲も強いキャラをデ・ニーロ・アプローチで演じてしまうのだから、アカデミー助演男優書の最有力候補といわれるのも納得。兄から一歩引いているミッキーのキャラは、そういう意味ではウォルバーグには損だったかもしれない。

 そういえば、時代背景が90年代前半であるにもかかわらず、聞こえてくる既製曲も70年代のロックナンバーが多めで、オープニングからいきなりJAMES BROWNのドファンク"THERE WAS A TIME"。ヒロインのバーではDARYL HALL & JOHN OATES"SARAH SMILE”が聴こえてくるし、兄貴が逮捕の原因となる事件を起こそうとするシーンではLED ZEPPELIN"GOOD TIMES, BAD TIMES"、試合のシーンではTRAFFIC"ROCK'N'ROLL STEW"、AEROSMITH"BACK IN THE SADDLE"…といった具合。時代考証的にもっとも腑に落ちるのは、前半のトレーニングのシーンで流れてくるBREEDERS"SAINTS"なんだろうけれど、当時はそれほどメジャーなバンドではなかったはず。意外にフィットしているのはミッキーが車の中で聴いていて、試合の入場曲にもしているWHITESNAKE"HERE I GO AGAIN”で、田舎町が舞台であるという点を考慮すると時代遅れ感を含めて、もっとも納得のいくセレクト。まあ、細かいことはともかく、さらに時代遅れだとしても、ラッセルは本作に70年代的なムードを加えたかったのではないだろうか。ある種の硬派さが信じられた、あの空気を。

 ジャケはトラフィック、"ROCK'N'ROLL STEW"を収めた1971年のアルバム『THE LOW SPARK OF HIGH HEELED BOYS』。

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