「アメリカン・スプレンダー」に見るレココレ魂

gakus2004-06-15

 色んなことが裏目に出て、思い通りに進まない日。こんな日もあります。ポッカリ時間が空いたので、新宿のレコード屋へ。帰り道、何一つ仕事をしないうちにレコードを買ってる自分がダメ人間に思えてくる。この次に生まれてくるときは、コレクターにだけはなりたくない…。

 レコード・コレクターといえば「アメリカン・スプレンダー」(7月公開)。主人公のハービー・ピーカーは、アメリカの有名なコミック『アメリカン・スプレンダー』の原作者である実在の人物。この漫画は病院の事務員をしているピーカーの、ごくごく当たり前の生活を描いたもので、彼はそのおかげで有名になるのだが、それでも相変わらず生活に四苦八苦し、ジタバタしている。そんなピーカーの庶民性は、多くの観客の共感を誘うと思う。そして個人的に、もうひとつ共感したのが、彼のレコード・コレクターとしての側面。

 主人公が収集しているのは78回転のジャズのレコードで、ロックやソウルを収集している自分とは志向が異なるが、シンクロ度はかなり高い。まず、部屋のレコード棚。重量オーバーです…といわんばかりのレコの重さに棚が歪んでいる。この年季の入り具合、わかる、わかる! 美術さん、いい仕事してます。さらにピーカーの発言“何枚集めても満足できないんだ”…こりゃ、重症コレクターです。極めつけは同僚に彼が尋ねる質問“俺って、暗い人間か?”…はい、その通り。カミさんに“レコード少しは処分しなさい!”とドヤされるのもイタかった。ハービーにとって2度目の結婚相手となった、このカミさん、結婚した後に“もっとユーモアのある人だと思ってたのに…”とハービーに訴え、それに対する彼の答えが“騙してゴメン…”である。

 とはいえ、ピーカー夫妻は現在も仲睦まじいとのこと。ケンカしたり、支えあったりを繰り返してきた彼らの結婚生活を、映画は淡々とスケッチしてゆく。こんなふうに自分の人生も続いていくんだろうな…そう思わせる自然さが、この映画の良いところだ。カミさんを怒らせない程度に、コレクター癖を抑えておかねば…。

 使用音楽はジャズが多いが、マービン・ゲイ/MARVIN GAYEの『エイント・ザット・ペキュリアー』は絶妙で、エンドクレジットではジャズ風のカバー・バージョンもフィーチャーされている。モータウンサウンドの名曲で、スモーキー・ロビンソンが書いたラブソングのベストのひとつ。なんだかんだ言われてもカミさんを愛してるピーカーの胸中を表しているようで、気持ち良い後味を残す。

 6月9日のダイアリーでも、ちょこっと触れたThe Clashの『KNOW YOUR RIGHT』は、結婚前にカミさんが働いている本屋で流れていました。


アメリカン・スプレンダー [DVD]

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