甦るルーザー思春期

gakus2008-01-11

 そういえば、自分もこういう生意気な高校生だったなーという思春期の甘さと苦さを、一部の人間に確実に思い出させる青春コメディー『JUNO/ジュノ』(初夏公開)のお話。アメリカではかなりヒットしているみだいだし、下馬評の高さから察するにアカデミー賞にからんでくる可能性も大。

 エレン・ペイジ(『ハードキャンディ』の玉切り娘)ふんするティーンのヒロイン、ジュノは、なんとなくいいなと思っていた男の子とセックスをして妊娠。一度は堕胎を思い立つも、中絶反対運動に熱心な友人の説得(“胎児だってもう爪が生えてるのよ!”)というひと言で思いとどまり、養子に出すことにして産む決意をし、理想の里親を探し当てる。そして出産までの間、彼女は大人の世界を覗き見て、生意気だった自分からちょっとだけ成長する…という後味の良いストーリー。今年の賞がらみの作品はダークな結末が多いけれど、こういう映画があると、ちょっとホッとする。ジェイソン・ライトマン監督はデビュー作の『サンキュー・スモーキング』に続いてイイ仕事してます。

 以下ロック談義。ストーリー的な結末には触れないけれど、ロック・ネタ的にはネタバレありすぎなので、それが楽しみな方は以下読み飛ばしてください。

 ジュノは自分が生まれる前の1977年こそロック最良の年だと思っている、『ゴーストワールド』のゾーラ・バーチみたいな女の子。好きなアーティストはストゥージズとパティ・スミス、ランナウェイズと…いった具合に見事な懐古趣味。PATTI SMITH『HORSES』のアナログ盤が、彼女の部屋で一瞬、発見できる。そんなジュノが里親として目を付けるのは、ジェイソン・ベイトマンジェニファー・ガーナー演じる、裕福だが子宝に恵まれない夫婦。ベイトマンはCM作曲家という設定で、昔ロックバンドをやっていた。1993年がロック最良の年だと信じる彼は当然オルタナ好き。ジュノにソニック・ユースがカバーしたカーペンターズの“SUPERSTAR”を聴かせて得意顔。ジュノも負けてはおらず、“イギーやストゥージズを聴いてるからおとなしいとおもったけれど、悪くないわ”などど生意気なことを言う。そして、お返しにモット・ザ・フープルの“ALL THE YOUNG DUDES"を聴かせる。この背伸び感がティーンのリアル。そんなジュノとの交流によってベイトマンは昔の夢がムクムクと呼び覚まされ、ベイトマンは“すべての若きバカ者ども”のひとりとなる。

 大人のリアルを感じさせるのは、ジェニファー・ガーナー演じるロックにまったく理解のない、ベイトマンの奥方。“そのTシャツ、バカみたいよ”と、旦那のサウンドガーデンのTシャツをシラッと批判するあたりは、なんだか痛いな…。あげく、“あなたがカート・コバーンになるまで待っていたら母親になれない!”とキッパリ。ロック好きのダメ男と現実的な女の温度差がくっきり浮かび上がる。

 この映画で起用されている音楽で、まず最初におっ!と思ったのはKINKS“WELL RESPECTED MAN"。KINKSのその後の市井ソング路線を決定付けた名曲で、周囲から尊敬されている人物の小市民的性質を皮肉っぽく歌っている曲なんだけど、これがジュノのセックスのお相手ブリーカーが初めて登場するシーンで流れ、ジュノのこの男に対する意識が浮き上がるナイスなセレクト。この斜に構えた視線の提示は、後半になって生きてくる。

 他はアコースティックな曲が多し。BELLE & SEBASTIANの駆け落ちソング“PIAZZA,NEW YORK CATCHER”が、お腹の大きくなったジュノが同級生たちにジロジロ見られるシーンで流れたと思ったら、ジュノがブリーカーとケンカしてベイトマンの家に駆け込むシーンのブリッジとして、追い打ちをかけるようにベルセバの“EXPECTATIONS”が。ティーンの周囲との違和感を歌ったこの曲はハマリ過ぎだ。

 ジャケは、その名曲“EXPECTATIONS”を収めた1996年のアルバム『TIGERMILK』。

 ロック談義に花が咲く、という点でもイイ映画。