中年男泣き
『バスキア』『夜になるまえに』のジュリアン・シュナーベル監督の新作『潜水服は蝶の夢を見る』(2月公開)は、フランス語映画ながら全米の賞レースを賑わせている秀作。フランスのアカデミー賞外国語映画賞候補作が『ペルセポリス』になったので、アカデミー賞では外国語映画賞はノミネートされないが、その他の部門で顔を出す可能性は大きい。
実話に基づく本作は、42歳で脳梗塞に倒れた男がELLE誌の編集長が主人公。まばたきでした自己表現できなくなった彼は、20万回以上のまばたきで言語療法士にアルファベットを伝え、自伝を書き上げる。その内容と、意思を伝える過程を丹念に描出。ともすれば湿っぽくなりそうなお話だが、映画は主人公のモノローグで展開し、そのポジティブな姿勢ゆえにクラさをまったく感じさせない。
シュナーベル作品はロックとは切り離せず、今回もふんだんにその手のナンバーが取り入れらている。自分がまず判別できたのは、U2の“ULTRAVIOLET”。主人公が愛人との不倫旅行を回想するシーンで、ドライブ中、風になびく愛人の髪が幾何学的な模様をなすとともに、この大陸的なサウンドがかぶさる。おかけで印象なシーンとなりました。
『バスキア』でも使用されていたTOM WAITSは、今回は2曲の起用。子供たちと海に出かけた主人公の姿に“ALL THE WORLD IS GREEN”。“あの古き良き日々を蘇らせてみよう”というフレーズが切ない。そして、エンドクレジットの2曲目では“GREEN GRASS”。渋いダミ声が映画を締めくくる。
エンドクレジットの一曲目、氷河が溶け落ちる逆回転映像に重なるのはJOE STRUMMER & THE MESCALEROS、ジョーの死後にリリースされたアルバム“RAMSHACKLE DAY PARADE”。これだけでウルウルきてしまう。泣きのツボを心得た選曲。他、印象的なところでは、主人公の妻を演じているエマニュエル・セニエが歌う“DON’T KISS ME GOODBYE”。夜道を歩く主人公の姿に、舌ったらずのダルなボーカルがマッチ。
ジャケは2002年リリース、“ALL THE WORLD IS GREEN”を収めたトム・ウェイツ、2002年のアルバム『BLOOD MONEY』。
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