「歌え!ジャニス・ジョプリンのように」

gakus2004-06-03

 今月開催のフランス映画祭横浜で上映後、ロードショー公開される「歌え!ジャニス・ジョプリンのように」を観賞。

 ロックをあつかったフランス映画はたいていダサいので、さほど期待していなかったが、これがなかなか面白い。横領発覚寸前の中年保険会社員が金策に困ったあげく、ジャニス・ジョプリンジョン・レノンの大ファンである、イカレた従兄弟が相続した遺産をせしめようとする。その手段は、妻をジャニスに、売れない俳優をジョンに仕立て上げ、天国から戻ってきましたという彼らを、ラリっている従兄弟に接近させるというもの。しかし、日常に退屈していた妻はジャニスになりきることで、急に生き生きし始め、計画は思わぬ方向に向かう…。“中年の危機”をユーモラスに描いたコメディー調の物語。安定した生活の中に潜むストレス、ちょっとばかり欲を出したためにはまりこむドツボ、馴れ合いすぎてしまった夫婦生活の倦怠が、リアルにとらえられている。それでも笑いがあるからヘビーにはならないし、最後までスッキリ楽しめた。

 スタンダードなロック・ナンバーの起用も、フランス映画らしからぬツボの心得よう。クラッシュ/THE CLASHの『JENNY JONES』をフィーチャーしたツンのめるようなオープニングからして快調、快調。ジョン・レノンのナンバーは、さすがに使用料が高すぎたのか『ISOLATION』一曲のみだが、ジャニス・ジョプリンの曲はけっこうフィーチャーされていた。とりわけ印象的なのは、ヒロインがクライマックスで歌う『KOSMIC BLUES』。“死ぬまで愛が欲しい”という歌詞は、ヒロインの心情そのままだ。

 中学生のころ、故ジャニス・ジョプリンの写真を初めて見て“面妖なオバサンだな”と思った。後に、それが二十歳そこそこの頃のジャニスであり、孤独からくるドラッグ癖で精神状態がボロボロだったことを知った。この映画でヒロインを演じたマリー・トランティニャンの最初の登場シーンも、完全に“面妖オバサン”。愛されている実感を失い、ただフケていくだけの疲労しきった顔つきが恐い。それだけに、ジャニスになりきって“死ぬまで愛が欲しい”と歌う姿には、異様な迫力がある。痛々しく、切ない。

 ご存知のとおり、ジャニスは『KOSMIC BLUES』を発表した翌年(1970年)、27歳で世を去った。一年間ボイス・トレーニングを受けてジャニスのような歌声をしぼりだしたマリー・トランティニャンは、この映画のヒロインを演じた直後の昨年夏、恋人との激しい諍いの末に突き倒され、意識を失ったまま急逝した。出来すぎだ。

 「歌え!ジャニス・ジョプリンのように」については、他にも触れたいパーツがあるので、明日はその続きを…。