私の好きなイギリス映画 8

gakus2004-09-23

 1966年に製作されたコメディー「モーガン」は、日本で劇場公開されなかったのが不思議なほどの傑作です。ビデオは一度発売されたものの、現在は廃盤。米国ではDVD化されているのだから、ぜひ日本版も出してほしい。

 労働運動に熱心な労働者階級の家庭に生まれ育った主人公モーガン(デビッド・ワーナー)は、動物、とりわけゴリラを愛する青年。しかし、極度に偏執的な性格が災いして、妻(ヴァネッサ・レッドグレーヴ)に離婚される。別れたくないモーガンは、必死に彼女の心をつなぎとめようとする。

 しかし、その手段がトコトン裏目に出るようなものばかりで、妻の再婚相手に嫌がらせをしたり、彼らのベッドインを盗聴したり、彼女を誘拐したり。極めつけはクライマックスで、「キングコング」に感化されゴリラの着ぐるみを着てチャペルに登り、結婚式場に殴りこむというトンデモなさ。

 ゴリラの夢を見てはニヤニヤしたり、動物の妄想に浸ったりなど、主人公は子供のまま大きくなったようなダメ男。しかし、この大人になれない部分が良い。“周りの人間、みな大嫌い!”とヤケになることは誰にでもあるが、彼がゴリラになるのは、それが極度に行き過ぎたかたちのように思える。反社会的だし褒められたことではないけれど、行けるところまで行ってしまう、このキレ方は不思議と魅力的なのです。

 ヴァネッサ・レッドグレーヴは、この映画で何とカンヌ映画祭の主演女優賞を受賞。監督のカレル・ライスは、この後「ザ・ギャンブラー」でアメリカに進出し、「フランス軍中尉の女」などの秀作を世に送り出す。ロックは使われていませんが、「唇からナイフ」のジョン・ダンクワースによる音楽のなかには、けっこうグルーヴィーな曲もあって60'Sのムードたっぷり。

 KINKS/キンクスが1970年に発表したシングルで、アルバム『ローラ対パワーマン、マネーゴーラウンド組第一回戦』(写真)に収録されている『APEMAN』は、少なからずこの映画の影響を受けているような気がするが、どうでしょう。