ボイル改心

gakus2005-09-01

 ダニー・ボイル監督の新作「ミリオンズ」(10月公開)は、チャーミングで善意にあふれたファンタジー。悪意を絶つための悪意を描いた「トレイスポッティング」とは対極にある。

 舞台はポンドがユーロへと切り替わる直前のイギリス。大量のポンド紙幣が詰まったバッグが天から降ってきて、信心深い8歳の少年は神様からの贈り物と思い込み、世のために役立てようとする。ところが、それは強盗一味が隠そうとしていた大金で、ユーロに切り替わるまえに両替しないと紙屑になる。そして少年は強盗に目をつけられ、金を返せと迫られるが…。

 「トレインスポッティング」では主人公のジャンキー的夢想が現実と交錯し、ビジュアルを面白くしていたが、ボイル監督は本作でも同様の手法をとっている。少年の夢想する聖人との出会いが、現実のシーンと巧みにつなげられ、それがファンタジーの味を醸し出す。思ったよりもブラックユーモアは控えめ。

 音楽もチャーミングなものが多く、スコア自体愛らしい旋律を持っている和み系。クラッシュ/THE CLASHの曲も使われているが、彼らの曲でもっとも愛らしいメロディを持った曲といえば、やはりモータウン調の『HITSVILLE UK』。女性ボーカルの歌も映えるこの曲は、主人公とその兄が、大金をわけあたえたクラスメートとともにサングラス姿でやってくる、「レザボア・ドッグス」のオープニングにも似たシーンで、かなりしっかりと使用される。エンディングのアフリカ風のナンバーも印象的な旋律を持っていて、これは感動を引き立てる曲となりそう。また、6月9日の日記に記したミューズ/MUSEの『HYSTERIA』『BLACKOUT』は、ともに強盗一味の犯行シーンでフィーチャーされていた。

 ジャケは『HITSVILLE UK』を収録したクラッシュ、1980年リリース、アナログでは3枚組の大作『SANDINISTA!』。