姿は見えども声はせず
ハーモニー・コリン、『ジュリアン』以来9年ぶりの監督作『ミスター・ロンリー』(2月公開予定)。実はこの監督、かなり苦手なので腰が引けていたのだが、そのせいか意外に面白い映画となっていた。
マイケル・ジャクソンの物真似で、路上で稼いでいる青年(ディエゴ・ルナ)が、マリリン・モンロー(サマンサ・モートン)の物真似芸人に誘われ、ソックリさんたちが共同生活をおくる古城へ移り住み、彼らと共に“地上最大のショー”を企画する。しかし、明らかに世間とズレているソックリさん集団が大衆のハートをつかむはずもなく…。後ろ向きととれなくもない結末のメッセージには、それなりに年取った身にはいささかキツかったが、これは想定範囲内。ソックリさんたちの日常に含まれる、現実離れした芳醇な寓話性は評価したい。
さて、この映画で面白いのはマイケル・ジャクソンのナンバーが一曲も使用されていないこと。主人公のパフォーマンのシーンは無音状態で、帽子を押さえて腰をクイクイさせたり動作が静寂の中で展開する。権利料が高かったのかどうかはわからないが、この不思議な味が寓話性を高めているので結果オーライか。代わりに、“MAN IN THE MIRROR"“ BEAT IT”“THRILLER”“YOU'RE NOT ALONE”などの曲名が、章のタイトルのようにテロップで現われる。
ジャケはマイケル・ジャクソン、“MAN IN THE MIRROR”の国内盤シングル。リリースは1988年。