オプティミストの行き止まり

gakus2009-03-11

 アカデミー賞こそ逃したものの、全米の映画賞で主演男優賞を独占したミッキー・ロークの渾身の演技が光る『レスラー』(6月公開)は、枯れた男気にグッとくる泣きの一作! これまではインテリクサさが、ちょっと鼻についてたダーレン・アロノフスキー監督だが、こんな映画も撮れるんだねえ。

 ロークがふんするのは、かつてはリングのカリスマだったが、今やドサ回り巡業とファンの集いでの日々を過ごすロートル・プロレスラー。試合の最中に致命的な重傷を負い、引退を余儀なくされた彼は不意に孤独に襲われ、仲の良いシングルマザーのストリッパー(アカデミー助演賞にノミネートされたマリサ・トメイ)の助言を得て、ずっと連絡をとっていなかった愛娘(エヴァン・レイチェル・ウッド)に会いにゆく。最初は無責任な父に対して怒っていた娘もロークの正直な告白に触れ、心を開いてゆく。慣れないスーパーマーケットの仕事に四苦八苦していたロークも、これに支えられて一度は新生活に前向きになっていたが、思いを寄せていたトメイにフラれたことから自暴自棄となり、結局すべてを失うことになる。彼に残されていたのは、プロレスしかなかった…。

 ”リングの上が俺の帰る場所”という自身のサガを悟っているかのような主人公の日常が、試合〜帰宅〜近所との交流という、最初の何気ないエピソードの羅列からつたわってきて、いきなり泣きそうになる。また、マリサ・トメイの40代と思えないほどハリのあるヌードに驚かされるが、それは年寄りなのに鍛え抜いていてるロークにしても同様。ふたりとも特殊な裸を武器にして日々の糧を得ている者同士。そんな彼らの結びつきそうで結ばれない関係も切ない。

 1月12日のエントリーで記したブルース・スプリングスティーンの主題歌がシみるのは言うべきにあらず。ちょっと面白かったのは、ロークとトメイがバーでかわす音楽談義。正確ではないが、こんな感じのやりとり。

「80年代の音楽は最高だった。ガンズ&ローゼズ」
モトリー・クルーもね」
「それがニルヴァーナの登場で変わっちまった」
「お気楽気分がダイナシよ」
「90年代の音楽はクソだ!」

 もちろん、自分はこの意見に全面的に賛成するわけではないが、80'Sのヒット曲に対する普通のアメリカ人の考えを代弁しているとしたら、なかなか興味深い。楽しい音楽か、そうでない音楽か。現在の80'sリバイバルには、今の音楽に楽天性が感じられない、ということを現わしているのだろうか。

 ジャケは、このシーンでバーでかかっていたRATT1984年のヒット曲”ROUND AND ROUND"の国内盤シングル。ちなみに80'sハードロック好きのロークは、リング入場時のテーマ曲にクワイエット・ライオット"METAL HEALTH"を使用していた。