久々に刺さった

gakus2009-11-24

 ロック・オタの恋愛下手ぶりを描いた作品としては『ハイ・フィデリティ』『ショーン・オブ・ザ・デッド』以来の傑作と断言したい『(500)日のサマー』(1月公開)。独身時代の自分を見ているようで、笑えたり痛かったり。

 主人公はグリーティングカードのコピーライター、トム(ジョセフ・ゴードン=レヴィット)で、同僚となった女性サマー(ズーイー・デシャネル)との出会いから熱愛、破局にいたるまでの500日が、ランダムな時制で描かれる。

 トムはインディー・ロックの洗礼を受けたせいか、妙に理屈っぽいのだが、少なくともTHE SMITHSをヘッドフォンで聴いてなければヒロインと仲よくなることはなかった。ヘッドフォンからこぼれおちるように聞こえてくる"THERE IS A LIGHT"に、サマーは”私もザ・スミスが好き”と反応して二人の交流は始まる。映画やDVDの劇中で、スミスがきっかけで話が弾む描写を見たのは、今年はこれが3度目。知らぬ間にアメリカではとてつもないカリスマになっていたのだなあ。スミス現役時代には、こんなことはあり得なかったぞ…と生まれた年を恨む自分。

 それはともかく、主人公の部屋にはジザメリピクシーズのレコジャケが飾られていて、学生の頃の自分とダブる。で、会社のパーティでカラオケ・バーに行った主人公はピクシーズ"HERE COMES YOUR MAN"を熱唱する(これが意外に上手い。ただし、この後同じバーで彼が歌うTHE CLASH”TRAIN IN VAIN"はヘロヘロ)。ピクシーズ現役時代のカラオケ・パブにも、やはりこんな曲は入ってなかった。よい時代になったなあ、とまたもため息が…。

 で、ヒロインと恋仲になった主人公はすべてがバラ色に見えるだけでなく、自分がハン・ソロのように思えるほどハイになり、街で踊り出す。道行く人々はバックダンサーと化して、主役はオレ状態。ここで流れるのがDARYL HALL & HOHN OATES”YOU MAKE MY DREAMS"。やっと典型的なアメリカ人らしい選曲になった。普段は偏狭なインディー・ファンが見下すであろうポビュラーなロックも、恋愛時には心地よく聴こえるもので、やはり気恥ずかしさを覚える。

 しかし、何より痛かったのはトムとサマーのダイナーでの会話の中で、『シド&ナンシー』が引き合いに出されるところ。こんな感じのやりとり。
サマー「このままじゃ、私たち"シド&ナンシー”になっちゃうわ」
トム「シドは愛する人を殺した。僕は君を殺したりしない」
サマー「私がシドなのよ」 
 理屈優先の文系男子が、情熱で行動できる女子には永遠にかなわないことを象徴するかのような会話。そもそもサマーはビートルズの中でリンゴ・スターがいちばん好きという、男のビートルズ・オタが決して吐かないことを堂々とカミングアウトできる女性。もう、これだけで絶対に彼女にはかなわないことがわかる。ブルース・リーの言う”考えるな、感じろ”を実践するのはバカ男子には難しいが、多くの女子は簡単にクリアしてしまうものだ。

 最近のインディー・ロックも色々かかっているが、中でも印象的だったのはオーストラリアのバンド、TEMPER TRAP"SWEET DISPOSITION"。サマーへの思いが駆り立てられるシーンで2度フィーチャーされていた。というわけで、ジャケは今年8月にイギリスでリリースされたこの曲の7インチ・アナログ盤。それと、エンドクレジットのMUMM-RA"SHE'S GOT YOU HIGH"も泣けたなあ。