リーズナブルになりました!?

gakus2011-12-05

 ビートルズの楽曲の映画における使用料は、ひょっとしたら数年前に比べて、とーっても下落してないか?…などと考えたのは、今月公開されるガス・ヴァン・サントの新作『永遠の僕たち』のせい。この映画の冒頭では、THE BEATLES"TWO OF US"が聴こえてくる。

 当ブログでも何度か記したけれど、ビートルズのナンバーの映画での使用料はとてつもなく高いのは映画界の常識だった。全編をビートルズ・ソングで固めたかった2001年の『アイ・アム・サム』では、使いたい曲をすべてフィーチャーすると権利料だけで製作費をオーバーしてしまうのでカバー・バージョンで妥協せざるをえなかったのは有名な話。実際、90年代から十数年にわたりビートルズの楽曲を劇映画で聴いた覚えがない。

 そんな状況だったから08年の『オー!マイ・ゴースト』でビートルズの"I'M LOOKING THROUGH YOU』が流れてきたときにはビックリした(2009年7月18日のエントリーを参照)。この時はコネで使えたのかな…と思った。『ベンジャミン・バトン』や『ソーシャル・ネットワーク』でビートルズが聴けた時は、大手スタジオの製作によるデビッド・フィンチャー作品だから使えるのかな、と想像。しかし『ノルウェーの森』がきて、この映画となると予算が限られている作品だけに、どうしても使用料の低下が頭をよぎる。

 もちろん、ビートルズの楽曲はあまりに有名だから、使い方によっては映画が曲に負けてしまう可能性もあるので作り手は慎重にならなければいけない。その点、『永遠の僕たち』は合格点を上げられると思う。両親と死別して以来、死に憑かれて学校わドロップアウトした少年(ヘンリー・ホッパー…故デニス・ホッパーの息子)が末期ガンの少女(ミア・ワシコウスカ)と出会い、ふたりだけの世界を築いていく、というストーリーを、この曲は甘く切なく象徴している。

 ちなみにガス・ヴァン・サントは'89年のデビュー作『マラ・ノーチェ』でもビートルズの”SERGEANT PEPPER'S LONELY HEARTS CLUB BAND"を使用していた。おそらく、この直後くらいから、映画製作者たちにとってビートルズの楽曲が手の届かないものになっていたのではないかと思われる。

 ジャケは2003年リリースの『LET IT BE...NAKED』。忘れもしない、初めて購入したCCCDで、我が家のCDプレーヤーをクラッシュさせてくれました…。

”自由”までの道程

gakus2011-11-18

 ビートルズ関連のアイテムがショップを賑わす、この時期、前回のエントリーで触れた『ジョージ・ハリスン/リヴィング・イン・ザ・マテリアル・ワールド』の他に、ポール・マッカートニーが企画した9.11同時多発テロ直後のチャリティ・コンサート”コンサート・フォー・ニューヨーク・シティ”の、バックステージのポールの姿を追うドキュメンタリー『ポール・マッカートニー/THE LOVE WE MAKE』の映像ソフトも年末にリリースされる。そしてこちらもまた、それに先駆けて劇場公開が決定。

 このコンサートは、9.11への対処により命を落とした消防士や警官の遺族に向けたベネフィット・コンサート。ボールは父親が消防士の仕事をしていたこともあって、彼らに共感を覚え、ヒーローを讃える趣旨で、このライブを発案した。「僕には消防士のように人を救うことはできない。でも音楽をプレイすることはできる」

 コンサートの告知に加え、新作『DRIVING RAIN』のリリース前ということもあって、プロモーション用のインタビューに飛び回るポールの姿から始まる。車から降りて街を歩くと、たちまち人に囲まれ、サイン攻めに遭うものの、愛想よくそれに応えるポール。ホームレス風の男に”俺をあなたりのコンサートに出してくれ”と真顔で言われたりもするが、そこは百戦錬磨のポール、軽くいなしてしまう。プロモーション活動だけでなく、コンサートに向けて若いバンド・メンバー達とリハーサルを重ねる姿も。ポール抜きで“I'M DOWN”のコーラスの練習をしているメンバーの姿が、なんだか微笑ましい。

 で、コンサート当日。楽屋ではピート・タウンゼントビリー・ジョエルら出演者が次々と訪れ、ポールに声をかけてゆく。今や父親より有名になった娘のステラ・マッカートニーもやってくる。個人的にグッと来たのは、ジェイムス・テイラーとポールとのツーショットで、アップルでのデビュー盤について昔話をするところ。ちなみに、バックステージの模様は実際のコンサートの模様と交互に映し出され、ステージの模様以外のドキュメント映像は、当日以前の映像も含めてすべてモノクロ。

 ”最後は皆で僕の新曲をやりたい、この日のため急きょ作った曲だ”と、ポールは出演者たちに、後に『DRIVING RAIN』の最後に収録される"FREEDOM"について熱心に説明する。この時点では、まだ誰も耳にしたことのないナンバーで、トリにもってくるのはリスキーとも思えるが、ポールは”皆で一緒に歌える曲だ”と力説。ピートは、こう答えた「大観衆と一緒に曲作りをするようなもんだな」。誰に語ったのか失念したが(確かクラプトン)、ミック・ジャガーにこの曲をプレイすることを納得させるため、ポールはひとりで”FREEDOM”を演奏して見せたらしい。オーディションを受けるような気分だったと、苦笑しながら語る。ある意味、この映画は”FREEDOM”を初めて人前で演奏するための、ポールの道のりをたどったドキュメンタリーと言えるかもしれない。

 一点、引っかかったのは「僕は平和主義者に常々言ってきた。”ヒトラーのような男が攻めて来たらどうするんだ?”と。戦うべきだ」。これは、のちの米国政府の好戦的な対応を思い返すと、賛否を呼びそうな発言。とはいえ、ビートルズ・ファンの視点とはては、”まだジョンをライバル視してるんですか?”と、ついツッコミたくなる。

 ツッコミついで。”コンサート・フォー・ニューヨーク・シティ”というタイトルは、ジョージ・ハリスンが1971年に行なったチャリティ・イベント”コンサート・フォー・バングラデシュ”からの借用だとポールは語る。そういえば、このライブのフィナーレもジョージがチャリティ目的で書いた曲("BANGLA-DESH")だった(ただし、この曲のシングル盤はコンサートの一週間ほど前にリリースされていた)。でも、ジョージはこの曲を自分のオリジナル・アルバムに収録するようなことはしなかったぞ。

 ライブ自体じっくり聴かせる作りでないのは、すでにこのコンサートの模様がソフト・リリースされているからか。ともかく演奏を楽しみたい方は、↓こちらをどうぞ。国内盤DVDは廃盤となっているようです。

コンサート・フォー・ニューヨーク・シティ

コンサート・フォー・ニューヨーク・シティ

ジャケはポールのアンピニエント・ユニット、THE FIREMANが1998年にリリースしたアルバム『RUSHES』。ここに収録された"WATERCOLOUR GUITARS"がエンドクレジットでフィーチャーされる。”火消人”の曲を使うとは、さりげなく粋な演出。

THE LOVE WE MAKE~9.11からコンサート・フォー・ニューヨーク・シティへの軌跡 [Blu-ray]

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THE LOVE WE MAKE~9.11からコンサート・フォー・ニューヨーク・シティへの軌跡 [DVD]

THE LOVE WE MAKE~9.11からコンサート・フォー・ニューヨーク・シティへの軌跡 [DVD]

精神世界に生きる

gakus2011-11-16

 ジョージ・ハリスンの生涯を『シャイン・ア・ライト』のマーティン・スコセッシが撮るのだから、こりゃあ期待も高まる『ジョージ・ハリスン/リヴィング・イン・ザ・マテリアル・ワールド』が来月のDVDリリースに先駆け、今週末より劇場公開される。

 1部、2部構成の大作と聴き、同じスコセッシの『ボブ・ディラン/ノー・ディレクション・ホーム』のような、ある時期のピンポイント的なストーリーを想像していたが、意外にこれがオーソドックスな伝記というべき内容。第一部はビートルズの一員として富と名声を手に入れるまでが追われており、これだけ見ると”今まで散々見てきたビートルズ・ストーリーの焼き直しかあ…”と思えなくもない。同時に、ここまで(ゲット・バック・セッションの前までなので68年ごろ)が半分ということは、この後30年以上が駆け足になるのか…という不安がよぎる。

 第2部は実際、駆け足と言えば駆け足なのだが、年代記的な構成だった第1部とは構成が異なってくる。ビートルズ解散あたりまではほぼ順を追っているが、ここからがエピソード切りとなり、友人のために開催したバングラデシュ・チャリティ・コンサート、『ライフ・オブ・ブライアン』への出資に始まる映画製作熱、F1レースへの入れ込み、ボブ・ディラントム・ペティらとのユニット、トラヴェリング・ウィルベリーズの結成と、逸話が連なり、強盗犯の侵入を経て、闘病〜死へと至る。ソロ期にしてもほぼ年代順ではあるのだが、このエピソードの羅列が、タイトルに関わってくる。劇中ジョージは”物質世界の本質は変化”と語り、盟友エリック・クラプトンも”ジョージは物質社会の否定と、信仰を求めていた”と述べる。そこから見えてくるのは、自分の心にしたがい、物質ではない”求めるべきもの”を手にしようとした男のストーリーだ。第1部でジョージがインドに行き、精神世界の追及にはまったことについて言及されるが、ここにきてそれが生きてくる。

 ジョージが求めたのは人と人とのつながりであったり、心の平安であったり、エキサイトできるものであったりと、さまざまだが、富と名声はそれらを手に入れるために活かされた、という見方ができる。それを踏まえて、ジョージと最後に会ったときを振り返るリンゴ・スターのインタビュー映像を見ると、涙目になっているリンゴと同様に、こちらも泣けてくる。

 当然、ここではジョージが遺した曲がふんだんに使われているのだが、ひとつ気になったのはそこにダークホース・レーベル期のナンバーが一曲もないこと。F1なら“FASTER”、映画なら“DREAM AWAY”、ジョン・レノンの訃報以後なら“ALL THOSE YEARS AGO”など、使い勝手のある曲がたくさんあるのに。もちろん、ダーク・ホース時代の最大のヒット曲“SET ON YOU”も聴けない。遺作『BRAINWASHED』から何曲か使われているので、選曲的には後期代表曲がスポッと抜け落ちている。はこれは契約上の問題からくるものなのか。第2部で年代記にできなかったのは、この辺の事情もあるかもしれない。

 ジャケはダークホース期のナンバーを集めたGEORGE HARRISONのベスト盤『THE BEST OF DARK HORSE』。オリジナルアルバム未収録の『リーサル・ウエポン2 炎の友情』の主題歌“CHEER DOWN”も収められています。

最新イギリス映画2題

gakus2011-11-06

 先週末に閉幕した東京国際映画祭で見た2本のイギリス映画について、忘れないうちに触れておこうと思う。

 ひとつめの『サブマリン』は、ARCTIC MONKEYSのALEX TURNERが音楽を提供したことで、その筋のファンの間で話題となっていた青春映画。

 主人公のロイドはミドルティーンの男の子で、そんな彼の恋の行方が家庭内の離婚騒動とともに、ユーモラスに描かれる。とくにドラマチックな波乱があるわけではなく、淡々とエピソードが連ねられているのだが、ひとつひとつがリアルで、胸にジンワリとシミこんでくる点がイイ。

 アレックス・ターナーの音楽はサントラ盤(画像)収録曲がすべて使われていて、どれも印象に残るけれど、やっぱりアークティック・モンキーズでもプレイしていた"PILEDRIVER WALTZ"がシミる。“水の上を歩くなら、履き心地のいい靴が必要だ”という詞が思春期の出口のない無いものねだりを象徴するみたいで、切なくなってくる。

 本作では時代背景が特定されておらず、ファッションやヘアスタイルから1960年代ころかなと思ったりもするのだが、タイプライターに加えて家庭用VHSが劇中で使用されるのだから80年代であるとみるのが妥当だろう。

 ほぉー、と思ったのは劇中の主人公のナレーションで、”鉄橋の下僕たちはキスをした。僕の唇は腫れ上がってしまった”という箇所。これはTHE SMITHS、84年リリースのデビュー・アルバムに収録されている“STILL ILL”の歌詞のまんま。この歌詞自体が、60年代英国のセレブの自伝本からの引用であることをモリッシーも認めており、そっちの原典からの引用とも考えられる。ヒロインからして『蜜の味』『ナック』の主演女優リタ・トゥシンガムを小太りにしたような感じだから、多分に60年代的ではあるけれど、ザ・スミスのこのアルバムにも『蜜の味』からの引用があり、当時サンディ・ショウがスミスをバックに歌った“HAND IN GLOVE"のシングル盤ジャケットにもリタ・トゥシンガムが使われていたのだから、まったく無縁とは言えないと思う。

 もう一本の『ティラノサウルス』は、ブライアン・ジョーンズ殺害犯を演じたり、最近では『ブリッツ』でゲイの刑事にふんし、上記『サブマリン』にも出演していた演技派俳優パディ・コンシダインの初監督作。

 これが初演出作とは思えない丹念な作り。妻に先立たれてうらぶれた日々を過ごす中年男(ピーター・ミュラン)と、夫の暴力に悩む人妻の交流をとおして労働者階級の生活のなかにはびこる暴力を見据えている。ゲイリー・オールドマンの初監督作『ニル・バイ・マウス』にも似たリアリティとシリアスさ、温かさが魅力。すでにサンダンス映画祭で監督賞を受賞しており、そのクオリティの高さから年末〜年明けの賞レースに絡んでくる可能性も大。

 こちらも『サブマリン』と同様に、音楽はアコースティック。劇中で一曲、葬儀のシーンで流れる印象的なナンバーがあるのだが、これが誰の曲かはわからなかった。

 どちらも今のところ、日本での劇場公開は未定。ぜひぜひ正式に公開して欲しいものです。

家に帰りたいんですけど…

gakus2011-11-01

 スティーブ・カレルの主演(兼プロデュース)作にしては、さほどオバカじゃない『ラブ・アゲイン』(11月公開)は邦題どおりのロマンチック・コメディ。個人的には、ちょっと身につまされたりして…。

 ある日突然、妻(ジュリアン・ムーア)から離婚を切り出されたマジメなサラリーマン(カレル)。妻にはすでに浮気相手(ケビン・ベーコン)がおり、彼は失意のどん底に突き落とされる。そんなある日、バーで出会ったのが、夜ごと女性をとっかえひっかえしている若い遊び人(ライアン・ゴズリング)。カレルは妻を見返そうと、この若い男の指導の下で、オシャレや会話のコツを猛勉強してプレイボーイの腕を磨いてゆくが…。他にコズリングが本気になってしまう女性にエマ・ストーン、カレルがナンパする女性にマリサ・トメイなどキャストは豪華。最近のこの手の映画には珍しく、悪人らしい悪人は出てこない、ある意味オールドスタイルのハリウッド映画。皆の気持ちがそれなりに理解できる点が魅力といえば魅力だけれど、都合良く話が進みすぎるのが難点と言えば難点。老いも若きも恋に夢中で、とてもお盛んな映画でありました。

 印象に残ったのは、妻と別居したカレルが夜中にこっそり戻ってきては庭の手入れをしているところ。このシーンではトーキング・ヘッズ“THIS MUST BE THE PLACE”が流れるんだけど、これがドンピシャで、”家こそ僕の求めるもの〜生まれつき気が小さいんだけどね”という歌詞は主人公の心情にハマリ過ぎている。ガーデニングという趣味がまたイイね。一方で、トーキング・ヘッズのデビッド・バーンの”ホーム”に対する小市民的なコダワリを改めて実感。これについては、『ウォール・ストリート』のエントリーもご参照頂ければ。

 ジャケは1983年リリース、TALKING HEADSのシングル"THIS MUST BE THE PLACE"。

↑この予告編で流れるTHE CUREMUSEは本編では使われていません。

自然体で行こう

gakus2011-10-24

全米公開から一年ほど間が空き、ようやく日本にもお目見えする『ラブ&ドラッグ』(11月公開)は、全米でベストセラーとなった原作に基づくロマンチック・コメディー。1990年代にバイアグラを広めて、全米一の製薬セールスマンとなったジェイミー・ベルのベストセラー手記を原作にしている。とはいえ、映画のラブストーリーの部分は原作にはない架空の要素。

 プレイボーイの素養を活かして製薬会社のセールスマンとなったものの、実績が上がらない青年(ジェイク・ギレンホール)。そんなある日、彼は営業先の病院でパーキンソン病を患う若い女性(アン・ハザウェイ)と出会う。難病ゆえに未来に怯える彼女に、青年はこれまで知り合った女性にはない魅力を感じ、体だけの付き合いはやがて本気の関係に。そうこうしているうちにバイアグラを扱うようになったジェイミーは、メキメキと業績を上げるが、一方で彼女の病状は悪化し…。

 話だけ聞くとありがちなお涙頂戴モノと思われるかもしれないが、そこは『ラストサムライ』の職人エドワード・ズウィック、感傷に溺れず、リアリティと軽やかさをもって物語を語る。全米公開時にはギレンホールとハザウェイの全裸ラブシーンのオンパレードが話題となったが、それにしても嫌味がなく、ラブストーリーの部分に説得力をあたえてる。アンの全裸姿が健康的過ぎて病人に見えないのが問題といえば問題か。

 時代背景を反映して音楽は90年代のロックが中心。ジェイクが上司の恋人である同僚に手を出し、最初の勤務先である電気屋をクビになるシーンの直前にSPIN DOCTORS"TWO PRINES"(この同僚の気持ちか!?)、直後にBREEDERS"CANNONBALL"が流れ、ヒロインの部屋ではLIZ PHAIR”SUPERNOVA”が聴こえてくる。ジェイクが車で聴くのはFATBOY SLIM”PRAISE YOU”で、クライマックスでは馬鹿男を笑うかのようにBECK"JACK-ASS”、といった具合。

 そんな中で、60年代のナンバーも溶け込んでいるから面白い。カフェではBOB DYLAN"STANDING IN THE DOORWAY"が流れているし、ジェイクとアンのやりまくり初期のコラージュでフィーチャーされるのはKINKS"A WELL RESPECTED MAN"だ。こうやって並べると、アコースティックな60年代ナンバーも90年代のオルタナの音も素朴な音色を大切にしているためか、違和感なく響く。逆に80年代のエコーがギンギンのサウンドは、ここではほとんどギャグで、ジェイクがバイアグラを売り始めるシーンで流れるBELINDA CARLISLE"HEAVEN IS A PLACE ON EARTH"は昇天セールスにはまり過ぎて笑えてくる。

 ジャケは1997年リリース、ベックのシングル『JACK-ASS』、UK盤。

あなた、勝者ですよ

gakus2011-10-11

メジャーリーグの球団経営に革命をもたらしたオークランド・アスレチックスのゼネラルマネージャー、ビリー・ビーンの栄光を実話に基づいて描いた『マネーボール』(11月公開)。主演にブラッド・ピット、監督に『カポーティ』のベネット・ミラー、脚本に『ソーシャル・ネットワーク』のアーロン・ソーキンを迎えた本作は、その顔ぶれにふさわしく、ガッツリと見ごたえのあるドラマでした。

 2002年、経営難のアスレチックスは主力選手を金満球団に引き抜かれ、瀕死の状態にあった。そこでビーン(ブラピ)がとった戦法は、出塁率をはじめとする堅実な数字を残した目立たない選手を安価で補強するというもの。経済学の秀才ピーター・ブランド(ジョナ・ヒル、好演!)をアドバイザーとして迎え、綿密な計算に基づいて選手を集める彼のやり方は、のちに”マネーボール理論”として広く知れ渡ることになる。ビーンの方針によって息を吹き返したアスレチックスは、やがて前人未到の大記録を打ち立てるが、それはビリーにとっての“勝利”ではなかった…。

 本作が人間ドラマとして優れている点は、単なる成功物語ではなく、光の裏側の影も描いていること。はたから見れば、ビーンの成し遂げたことはまぎれなく“勝利”だが、本人はさらにその先を見据えていたので、それを“勝利”として受け止めることができなかった。そこに人間の貪欲さや物悲しさを感じさせる。ホームランを打ったことに気付かず、全力疾走してしまう劇中の選手は、まさにその象徴。『ソーシャル・ネットワーク』のラストから悲哀を感じ取れた方ならば、そこから似たような感触を得ることができるはず。

 この映画の音楽については特に語りたいことはないけれど、一点、気になったことを記しておく。ビーンのオフィスで彼とブランドがミーティングを行なうシーン、ブランドの背後にはモヒカン姿の、クラッシュ時代のジョー・ストラマーの写真が飾られており、一方のビーンの背後にはクラッシュのライブ告知ポスターが貼られている。ストラマーがモヒカンにしたのはアルバム『コンバット・ロック』リリース時の1982年で、このころクラッシュは同作のヒットを受け、ザ・フーの前座として全米でスタジアム・ツアーを行なっていた。アスレチックスの本拠地オークランド=アラメダ・カウンティ・コロシアムでも当時、彼らの公演が行われていた。

 ビーンがクラッシュのファンだったのかどうは知らないが、個人的には彼とジョー・ストラマーが重なって見えてしまう。クラッシュはこの後、メンバーチェンジによってガタガタとなって解散し、ジョーが掲げたパンクロックによる革命を果たせずに終わる。後年、ジョーはそれを後悔し続けたが、現在クラッシュの音楽は多くの若い世代に影響をあたえ続けているのは周知のとおり。リスナーひとり、ひとりの人生に大きな影響をあたえたという“勝利”に、ジョーは気付いていたのだろうか? 彼が世を去った今となっては知る由もない。

 ジャケは1982年のスタジアム・ツアーからのライブ・アルバム、THE CLASH『LIVE AT SHEA STADIUM』、2008年リリース。