規格外の人
音楽ドキュメンタリー映画のここ1、2年の充実ぶりには目を見張るものがあるが、「悪魔とダニエル・ジョンストン」(9月公開)も面白い一編でした。
シンガーソングライターであり、画家、映画監督でもあるダニエル・ジョンストンは躁うつ病と戦いながら、かれこれ20数年もアーティスト活動を続けている。その生い立ちから現在までをたどったのが、この映画。小さいころから、歌はもちろん母親の小言や自身の発言をカセットテープやビデオカメラに収めている人で、ここではそこからのフッテージがふんだんに使用されている。作りとして面白いのは、映像ではその姿がメインでとらえられるものの、インタビュー・フッテージに周囲の人々は登場するが本人はいっさい登場しないこと。しかし…というか、だからこそ、というべきかもしれないが…ジョンストンのキャラクターの面白さが明快に見えてくる。
ジョンストンは精神に問題があるので、両親も目が離せずにいる。コミックを愛し、ひとりの女性に対するラブソングを何百曲も書き続け、悪魔の存在を信じ、精神病院への入退院を繰り返す。そんな人物ゆえに、周囲とフィットし辛い。ソニック・ユースとのレコーディング時にはマネージャーとケンカしてひとりNYをさまよい、心配したサーストン・ムーアとリー・ラナルドが車で探しに行くことなったり、ジャド・フェアとのレコーディングを終えて長距離バスで帰宅する途中で家宅侵入したり、コンサートを終えて父の運転するセスナで帰宅する最中に父親から無理矢理、操縦桿を奪ってセスナを墜落させたり…と、その伝説を挙げるとキリがない。カート・コバーンがジョンストンのTシャツを着ていたことで注目されたが、ジョンストンはニルヴァーナを聴いたこともなかったという。とにかく、注目されたことでメジャーのレコード会社が争奪戦を繰り広げることになる。本人が精神病院に入院している状態にもかかわらず。しかし最初のメジャーから出たアルバムのセールスは5800枚しか売れず、契約は打ち切られる。
つまり、メジャーの規格に収まるような人ではないのである。他人の言うことを聞かないし、何かをやらせようとしても簡単には動かない、失うことを後悔しない。そもそも“ビートルズを再結成させて僕のバックバンドにしよう”などと真顔で言う人を操れるはずがない。ある意味、根っからのアーティストで、インディーズ体質の人。インディーズなら5800枚売れれば大ヒットだ。
もうひとつ印象に残ったのは、メジャー契約時にクビにされたマネージャー。ジョンストンに“悪魔”呼ばわりされたそうだが、見た目は温厚そうなこの人、今ではジョンストンの絵を買い漁っては画廊に貸し出し、またメジャー・デビュー前のジョンストンの音源をダビングしてネットで通販しているという(自宅のダブルカセットデッキでダビングしている姿が泣かせる…)。ジョンストンのインディーズ体質を誰よりも理解していた人ではないだろうか。
ジャケは、先々月リリースされたジャド・フェア&ティーンエイジ・ファンクラブの7インチ『LIKE A MONKEY IN A ZOO/HAPPY SOUL』。A・B面ともにダニエル・ジョンストンのカバー。イラストももちろん、ジョンストン画伯です。
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